最新記事

カルチャー

裸に豹の毛皮を巻いた16歳の美輪明宏 三島由紀夫に誘われ返したひと言は......

2022年11月3日(木)14時52分
岡山典弘(作家、文芸評論家) *PRESIDENT Onlineからの転載
美輪明宏と三島由紀夫

美輪明宏(左)と三島由紀夫 PublicDomain - Wikimedia Commons


歌手・俳優の美輪明宏は、三島由紀夫の舞台『黒蜥蜴』で主演を務めた。2人が初めて出会ったのは、美輪さんがまだ16歳の時だったという。文芸評論家の岡山典弘さんの『三島由紀夫が愛した美女たち』(MdN新書)より、2人の出会いの場面を紹介しよう――。


生まれ育ったのは"女の地獄"

三島由紀夫が、その美貌と演技力と歌唱力とを絶賛した現代女形の美輪(丸山)明宏。

明宏(旧名・丸山臣吾)は、昭和十年に長崎の丸山遊郭で生まれた。三島由紀夫との年齢差は十歳である。明宏の両親は、丸山遊郭の一画でカフェ「新世界」を経営していた。花街で幼少期をおくった明宏は、"男の天国"が実は"女の地獄"であることを知った。

家の隣には、劇場と映画館を兼ねる「南座」があった。明宏は、ここで坂東妻三郎や長谷川一夫の芝居を食い入るように見つめ、『女だけの都』『マタ・ハリ』『椿姫』『モロッコ』『ブロンド・ヴィナス』などの名作に親しんだ。

明宏が十歳のとき、長崎に原爆が投下された。

「阿鼻叫喚(あびきょうかん)の交響楽がシンバルやティンパニーの乱打とともに、何十万の悲鳴のコーラスを叫び、この世の果てまで届くよう助けを求めて哭(な)いていました」

新聞広告「美少年募集!」

終戦後、明宏は海星学園に進んだ。

海星学園は、オランダ坂の石畳をのぼった丘の上にあった。白亜の校舎の頂からは、聖母マリアの像が長崎の街を見守っていた。

「長崎のコバルト色の空や港、中間色の町並みを見下ろす丘の上にある学校の講堂で、ピアノを弾いて歌っていたあの頃が、一番美しい思い出となっています」

しかし明宏は、突如として海星学園を退学して上京する。

ティノ・ロッシの「小雨降る径(みち)」に魅了されて、シャンソン歌手になるために国立音楽大学附属高校に転じた。

――美少年募集!

アルバイトを探していた明宏の眼に、新聞広告の文字が飛び込んできた。

美少年を集めていたのは、銀座五丁目の「ブランスウィック」である。ところがこの店は、ただの喫茶店ではなかった。


有楽町の一画にあるルドンといふこの凡庸な喫茶店は、戦後に開店していつかしらその道の人たちの倶楽部になつたが、何も知らない客も連れ立つて入つて来て、珈琲を飲んで、何も知らないまま出て行くのだつた。
 
店主は二代前の混血を経た四十格好の小粋な男である。みんながこの商売上手をルディーと呼び慣はしてゐる。
 
(三島由紀夫『禁色』)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏に罰金9000ドル、収監も警告 かん口令

ワールド

訂正-米中気候特使、5月にワシントンで会談

ビジネス

ECB、6月利下げ開始の確信強まる インフレ指標受

ビジネス

米インフレは低下、コスト低減へ一段の取り組み必要=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 9

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 10

    日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退──元IM…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中