最新記事

海外ノンフィクションの世界

人生は長距離走、走ることは自らと向き合うこと──走らない人の胸も打つウルトラトレイル女王の哲学

2022年3月1日(火)16時55分
藤村奈緒美 ※編集・企画:トランネット

印象的なセンテンスを対訳で読む

『人生を走る――ウルトラトレイル女王の哲学』の原書と邦訳から、印象的なセンテンスをいくつかご紹介しよう。

●The world and all of time has been distilled down into this one moment. Now. Nothing else exists. Nothing else matters. All that there ever was, and all that there ever will be, is embraced by this one moment and my struggle to keep moving through it.
(世界も、時間のすべてもこの一瞬に凝縮されている。今この瞬間に。ほかのものは何も存在しない。ほかのことは何も重要ではない。かつて存在したものも、これから存在するものも、すべてはこの一瞬に、そしてそのなかで動き続けるわたしの苦闘に包括される)

――エベレスト・ベースキャンプからカトマンドゥに向かって走り続け、あと少しで目的地に到着するころ、ホーカーはこのような境地に達する。

●It was special - not so much for me, but when I realized what it meant for the women of Sparta. A group came up to me in the street to thank me, it was a touching and humbling gesture. It still overwhelms me to realise that my own personal achievement and effort does in fact sometimes have a wider significance.
(これは特別なことだった――わたしにとってはそれほどでもなかったけれど、それがスパルタの女性にとってどんな意味があるかに気づいてそう思った。数人のグループが、通りでわたしに近づいてきて感謝の言葉を述べた。感動的で、身が引き締まる思いがした。わたしという個人の成果や努力が、ときにはそれ以上に大きな意味を持つこともあるのだと気づくと、今でも圧倒される思いがする)

――2012年のスパルタスロンでは、女性第1位、総合第3位という快挙を達成。だが彼女は、順位そのものより、それがほかの人々に与える影響や社会的な意義を大切なものとして受け止める。

●Running has often been the tool that I use as a way to explore, to learn, to live. It takes me to a place of balance - physical, mental, emotional. Running or not is irrelevant. It is the finding something that lets us delve deeper into our own story that matters.
(わたしは、走ることを、探索し、学び、生きるための道具として用いることが多かった。そしてバランスを保つ点にたどり着くことができた――身体的にも、精神的にも、感情的にも。走るか否かは問題ではない。大切なのは、自分自身の物語をいっそう深く探らせてくれるような何かを見つけることなのだ)

――故障のために走れなくなった時期を経て、ホーカーは、今の自分があるためにはすべてが必要なことだったのだと受け入れ、走ることの喜びを改めて噛みしめ、自分にとって走ることが持つ意味を見つめ直す。

トランネット
出版翻訳専門の翻訳会社。2000年設立。年間150~200タイトルの書籍を翻訳する。多くの国内出版社の協力のもと、翻訳者に広く出版翻訳のチャンスを提供するための出版翻訳オーディションを開催。出版社・編集者には、海外出版社・エージェントとのネットワークを活かした翻訳出版企画、および実力ある翻訳者を紹介する。近年は日本の書籍を海外で出版するためのサポートサービスにも力を入れている。
https://www.trannet.co.jp/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀は8日に0.25%利下げへ、トランプ関税背景

ワールド

米副大統領、パキスタンに過激派対策要請 カシミール

ビジネス

トランプ自動車・部品関税、米で1台当たり1.2万ド

ワールド

ガザの子ども、支援妨害と攻撃で心身破壊 WHO幹部
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中