最新記事

ジョンのレガシー

1980年12月8日、ジョン・レノンが「神」になった日【没後40周年特集より】

2020年12月8日(火)17時00分
アラン・メイヤー、スーザン・アグレスト、ジェイコブ・ヤング(本誌米国版編集部)

世界が追悼 「ジョン・レノン死す」のニュースは世界を駆け巡り、彼の突然の死を悼む世界中のファンが即席の祭壇を作った THE LIFE PICTURE COLLECTION/GETTY IMAGES

<80歳まで生きようと語っていたヨーコとジョン。その願いを断ち切った悪夢――衝撃の事件を報じた当時の記事を再録(本誌「ジョンのレガシー」特集より)>

かつて「カム・トゥゲザー(集まれ)」と歌った声に誘われるように、ニュースを聞いた人々が衝撃と悲しみを分け合おうと集まった。ビートルズの4人の中でも皮肉屋で、その音楽によって1つの世代を動かし、世界を魅了したジョン・レノンが、彼を崇拝する狂信的な若者によって自宅前で射殺された。
20201215issue_cover200.jpg
ニューヨークのセントラルパーク・ウェストと西72丁目の角にあるダコタハウスの前には、涙に暮れた人々が夜を徹して彼の死を悼み、慰め合う姿があった。同じような光景は全米、いや全世界で見られた。ダラスのリーパーク、サンフランシスコのマリーナ・グリーン、ボストン・コモンをはじめ、無数の場所で、年齢や人種を問わず多くの人が集まり、ろうそくをともし、彼の歌を口ずさんだ。「愛こそはすべて」。みんな、雨に打たれながら歌った。

ビートルズの事実上のリーダーだったジョンは、60年代、70年代のポップカルチャーに神のような存在として絶大な影響を与えた。だが最近は音楽業界や公の場から姿を消し、隠遁生活を送っていた。

その彼が5年ぶりの新アルバムを携えて戻ってきたのは数カ月前のこと。次のアルバムの準備も順調に進んでいた。「僕はまだ40だ。この先あと40年は創造的な日々がある」。

彼はそう明るく語っていた。しかし、当ては外れた。レコーディングを終えて妻オノ・ヨーコと共に帰宅した彼の前に、マーク・デービッド・チャップマン(当時25)が立ちはだかり、暗闇から凶弾を放ったのだ。

事件の第1報に世界中が驚愕した。北米とヨーロッパのラジオ局は通常の番組を中断し、ジョンとビートルズの曲だけを流し始めた。モスクワのラジオ局も彼の曲に90分を割いた。

ショックで取り乱したファンはレコード店へ詰め掛け、ジョンのレコードを手当たり次第に買いあさった。ボストンのレコード店主は言う。「みんな、大事なものを盗まれたように血相を変えていた。失ったものを、何とかして取り戻そうとしていた」

チャップマンは、ジョン・レノンになりたかった。それなのに、なぜ殺したのか。彼を殺せと言う「声」を聴いた。半年前にサインを頼んだとき、ジョンのサインの仕方が気に入らなかった――。警察によれば、チャップマンはそんな供述をしているらしい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

円が対ドルで5円上昇、介入観測 神田財務官「ノーコ

ビジネス

神田財務官、為替介入観測に「いまはノーコメント」

ワールド

北朝鮮が米国批判、ウクライナへの長距離ミサイル供与

ワールド

北朝鮮、宇宙偵察能力強化任務「予定通り遂行」と表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中