コラム

誰かと比べると際立つ、故ブッシュ大統領の偉大さ

2018年12月15日(土)13時30分

支持基盤に受けるかどうかより、国益に資するかを重視する姿勢はいかにもブッシュらしい。だが92年初めの訪日時には体調を壊し、晩餐会で隣席の宮沢喜一首相のほうに倒れ込んで嘔吐した事件が騒がれて、肝心の交渉の成果はその陰に隠れてしまった。政策では堅実に実績を残しているのに、政治的な運の悪さで十分評価されない――そんな気の毒なブッシュの一面がよく表れた事件だ。

米大統領は米軍の最高指揮官でもあるが、ブッシュ後の大統領は1人も戦闘経験を持たない。ブッシュは58回出撃し、日本軍に撃墜され九死に一生を得た経験も持つ。そのブッシュがかつての敵である日本と2つの記念すべき和解を成し遂げた。

1つは第二次大戦中の日系人の強制収容問題。ブッシュは大統領として公式に謝罪し、収容された人々全員に2万ドルの補償金を支払う法律に署名した。

さらに日本軍による真珠湾攻撃から50周年に当たる91年12月の式典では、「日本に対し何の恨みも抱いていない」と有名な融和演説を行った。若き日に日本軍と戦い殺されそうになったにもかかわらず、高らかに和解を宣言する。ブッシュはまさにそんな指導者だった。

<本誌2018年12月15日号掲載>


※12月18日号(12月11日発売)は「間違いだらけのAI論」特集。AI信奉者が陥るソロー・パラドックスの罠とは何か。私たちは過大評価と盲信で人工知能の「爆発点」を見失っていないか。「期待」と「現実」の間にミスマッチはないか。来るべきAI格差社会を生き残るための知恵をレポートする。

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サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

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