コラム

米メディアは本当にオバマに甘く、トランプに厳し過ぎるのか

2018年07月07日(土)14時30分

メディアのオバマびいきが指摘されるのは今に始まったことではないが Tobias Schwarz-REUTERS

<共和党支持者はメディアの「偏向報道」にご不満だが、トランプはメディアの過剰報道に助けられてもきた>

トランプびいきの友人たちは、メディアに対して怒ってばかりいる。オバマ前大統領とトランプ大統領の扱いが違い過ぎるというのだ。

保守派を中心にネットで拡散されている画像がある。タイム誌の表紙を8枚、オバマが表紙の号とトランプが表紙の号を4枚ずつ並べたものだ。タイムの表紙を飾るオバマは、堂々としていて、自信に満ちていて、余裕があり、冷静に見える。そこに、「勝者」など前向きな言葉が添えられている。

トランプを描いた表紙はことごとく漫画チックだ。顔が溶けて崩れていたり、前髪が炎上していたり。添えられている言葉も「メルトダウン」「嵐の襲来」という具合だ。

メディアのオバマびいきが指摘されるのは、今に始まったことではない。08年の大統領選でオバマとヒラリー・クリントンが民主党の候補者指名を争ったときも、メディアがオバマに肩入れしていると言われた。

シンガポールでの米朝首脳会談の後、共和党支持者はメディアが不公正だと息巻いている。オバマは「核兵器なき世界」の実現を訴える演説をしただけでノーベル平和賞を授与された。それに対し、トランプは歴史的な会談を行ったのに、成果の乏しい会談だとメディアから酷評されている、というわけだ。もしオバマが金正恩(キム・ジョンウン)党委員長と会談していたら、メディアは2度目のノーベル平和賞を訴えたのではないかと言う人もいる。

しかし、私は大学の授業で「メディアの偏向は関係ない」ときっぱり言う。当惑した顔の学生たちに、私は説明する。メディアの最大の役割は、客観的真実を報じて人々に判断材料を提供すること。ある政治家が別の政治家より優れていると分かっているなら、それを伝えるべきではないか。教室ではこの後、メディアが政治家に対する評価をどの程度はっきり打ち出すべきかという議論に進む。

メディアが犯した真の罪

トランプは、メディアの恩恵に浴してきた面もある。16年の大統領選に名乗りを上げたとき、本当なら候補者としてまともに相手にするには値しなかった。しかし、メディアは、無能で嘘つきで滑稽なトランプを大々的に取り上げた。報道量は、対立候補だったクリントンの約3倍だった。

米朝首脳会談でも、トランプはメディアに助けられた。メディアは、ばかげたお祭り騒ぎにすぎない会談を、いかにも国際政治の重要イベントであるかのように報じた。

トランプは、常軌を逸した好戦的言動で世界を戦争の瀬戸際に引きずり込み、イラン核合意や地球温暖化に関するパリ協定などオバマの成果をことごとく覆し、G7諸国との関係も傷つけている。その結果、アメリカの国益を危うくし、国の評判も落とした。

米朝首脳会談の中身も、アメリカにとって懸念すべきものだった。メディアはあまり指摘していないが、金正恩はトランプを侮辱したのだ。トランプは非核化の約束を取り付けるどころか、金正恩を絶賛して国際社会の一員としてお墨付きを与え、米韓合同軍事演習も中止してしまった。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story