コラム

社会主義国のプールに潜む、スポーツではない水泳の匂い

2017年09月07日(木)16時45分

From Mária Švarbová @maria.svarbova

<パステル調のトーンと静的で個性の消滅した人物たち。スロバキアの写真家マリア・スワーボワの生み出す得体の知れない世界観の魅力>

一般的にはコマーシャルな写真は低く見られがちだ。だが時には、ヴィジュアル性を超えた、得体の知れない世界観にはまってしまうこともある。

今回取り上げるスロバキアの写真家、マリア・スワーボワもそんな作品を生み出している1人。アカデミックなバックグラウンドは建築と文化財の修復だったが、その後、写真にフォーカスしはじめ、広告・ファッション写真を基軸にしながら、空間と人物の関係をテーマにプロジェクトを進めている29歳の女性である。

舞台となる空間の大半は、スロバキアがチェコスロバキアの一部だった社会主義時代の建築物、あるいは公共の場所だ。とりわけ、今年になって写真集も出されたスイミングプールのシリーズは、彼女のプロジェクトの中で最も大きく、彼女の名声を決定づけた作品でもある。

スイミングプール・シリーズには、大きな特徴が2つある。まず、色使いだ。透明感を持ったパステルの色調がほぼ常にその空間を覆っており、それが不可思議な落ち着きを与えてくれる。また、登場人物のスイミングスーツやキャップなどにしばしば使用されている白、赤、青の3色も、エレガントなアクセントの効果を作り出している。

もう1つは、作品空間の中に存在する人である。時に1人、あるいはグループであったりする。彼らはスローモーションの動画の中で、動きがぱたっと止まってしまったかのようで、またシンメトリーな感覚を持って非常に静的に配置されている。まるで何かの童話に出てくる機械仕掛けの人形のようで、個性など完全に消滅している。こうした要素がパステル調のトーンと重なって、見る者を異次元の世界に誘い出してくれるのである。

【参考記事】ホームレスの写真を商業写真家が撮る理由

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRBは利下げ余地ある、中立金利から0.5─1.0

ビジネス

米ワーナー、パラマウントの買収案を拒否 ネトフリ合

ビジネス

企業は来年の物価上昇予測、関税なお最大の懸念=米地

ビジネス

独IFO業況指数、12月は予想外に低下 来年前半も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 10
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story