コラム

1つの組織に専属しない、アメリカの部活動から日本が最も学ぶべきこと

2022年06月08日(水)13時40分

つまり、スポーツにしても音楽にしても、学校の部活に「専属」はしないというシステムになっています。細かなメカニックのスキルは、地域の専門家に個人指導を受けるし、学校より広域圏のハイレベルのチームや楽団と「掛け持ち」することも多いわけです。

ただし、優秀な選手の場合は、やはり学校を代表する選手や奏者であるというのは名誉ですし、大学進学のAO入試において評価されるので、学校の部活や楽団を「スキップ」することは余程の理由がない限りしません。反対に、学校の楽団や部活は、それ自体の拘束時間は短く、時には季節限定だったりするわけで、「掛け持ち」は可能なシステムになっています。

学校の部活に「専属」する日本とは全く異なるシステムですが、メリットとしては、学校の先生の超過勤務が(あるにしても)限定的ということ、また地域や広域圏のより優秀な指導者の指導、つまり打撃のコーチや、バイオリンの個人指導など専門的な指導を受けることができることが挙げられます。

また、所属校の部活が「比較的のんびり」していても、広域圏のオーケストラなり、チームに参加することで、越境入学(原則禁止です)や私学への進学などをしなくてもハイレベルな演奏やプレーに参加ができるのは良い点だと思います。何よりも、単一の集団に帰属するより、個人が主体となって活動し、複数の指導法や価値観に接することができるのが大きなメリットだと思います。

日本の部活動の最大の問題点は?

実施団体について言えば、それぞれの地域あるいは広域圏の楽団やリーグは独立して運営されていて実績もあるので、保護者も信頼して子供を参加させることができます。また、学校側としては全くの別団体に保護者が子供を任意で参加させている以上、特に責任を問われることはありません。

デメリットももちろんあります。多くの団体に参加する、多くの指導者にレッスンを受けるというのは、コストの点で受益者負担が大きくなり、格差の再生産になりがちというのは問題だと思います。また、スポーツにしても、音楽にしても基礎ができていることが、部活参加の前提となっており、トライアウトとかオーディションという入団試験に受からないと参加機会がないというのも問題です。

それはともかく、日本の部活に関して言えば、最大の問題は顧問教諭の労働条件ではないと思います。閉鎖的な集団に強く帰属することで、今では日本の実社会でも通用しない先輩後輩のヒエラルキーなどの古い価値観を押し付けられるとか、コーチングのスキルのない指導者による暴言や暴力の問題など、部活そのものが持っている価値観の近代化の問題が大きな課題であると考えられます。

その点からも、21世紀の日本の中高部活における「あるべき姿」を考えていく上で、アメリカの「1つの組織に専属しない」仕組みというのは、参考になるのではないでしょうか。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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