コラム

アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないのか?

2025年07月09日(水)11時40分
テキサスの水害現場

テキサスの水害現場では、行方不明者の捜索が続いている Sergio Flores-REUTERS

<自然の脅威は全て神が与えた試練だという宗教的信念が、その根底にはある>

7月4日の独立記念日に、テキサス州中部を襲った集中豪雨では、現時点では100人以上の死亡が確認され、依然として160人以上が行方不明となっています。被害の発生した渓谷は、昔から「鉄砲水の起きやすい」場所として有名で、近年でも1998年に31人が死亡、2015年には15人が死亡するなど、豪雨災害を経験している土地でした。

それにもかかわらず、今回のような大惨事になってしまったのは、45分間という短い時間で川が8メートル増水するという異常な降雨があったためと言われています。この集中豪雨ですが、メキシコの東海岸を北に進んでいた熱帯低気圧「バリー」が原因とされています。

この熱帯低気圧は、大西洋上の湿った空気と同時に太平洋上の湿った空気もテキサス州に吹き込み、両者が合わさって猛烈な降雨になったようです。その背景には、海水温の上昇があると考えれば、今回の悲劇の原因として地球温暖化を考えるのが自然です。


温暖化理論を認めないトランプ政権

ところが、これだけの大惨事が起きたにもかかわらず、地球温暖化の問題は話題になっていません。その背景には、現在のアメリカは温暖化理論を認めない保守派のトランプ政権の時代であること、そして、災害の発生したテキサス州中部という土地柄が、やはり保守的なカルチャーを持っているという事情があります。では、どうしてアメリカの保守派は温暖化理論を信じないのかというと、そこには歴史と風土に根ざした原因があるからです。

それは、次のような思考の流れであると考えられます。

まず、アメリカの中西部や南部に入植した開拓者たちは、過酷な自然と闘ってきました。厳冬期には低温、降雪、氷雨などとの闘いがあります。また、春先に激しい竜巻、夏の干ばつや豪雨、そしてイナゴなどの害虫も脅威です。そして、秋にはハリケーンがあるなど、北アメリカ大陸の苛酷な自然は開拓者にとって試練の連続だったのです。

そのような苛酷な自然との闘いを通じて、自然は人間の敵であり、神の与えた試練に他ならない、開拓者たちにはそのような信念が生まれました。自然の威力は強大であり、とても人為では対抗できないという考え方です。温暖化などの気候変動は、そのような自然の巨大な脅威の1つであり、そのような信念からは、大都市やヨーロッパの左派が言う「人間が行動を自制すれば温暖化は改善する」などという発想法は全く理解できないということになります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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