コラム

1つの組織に専属しない、アメリカの部活動から日本が最も学ぶべきこと

2022年06月08日(水)13時40分

アメリカの課外活動は、日本の中高の部活動とは大きく異なる DarioGaona/iStock.

<日本の部活の最大の問題は、閉鎖的な集団に強く帰属させるその「価値観」>

日本の中高の部活動においては、顧問となる教員の超過労働が問題になっています。その解決策として、部活の「地域移行」という動きが進められています。現時点では、地区によって千差万別ですが、少なくとも週末の部活動については、教員ではなく地域の指導者に委ねるという方向が模索されているようです。

この「部活の地域移行」ですが、アメリカの事例を参考にするべきという声もあるようです。具体的には、「アメリカでは教員に顧問を強制しない」「顧問に就任した教員には追加の報酬がある」といった点は、日本でも実現出来ればいいと思います。ただし、実際にはアメリカでも高校の部活の対外試合は土日に行われることが多く、任意参加であっても顧問教員が家庭との両立に悩むケースはゼロではありません。

その一方で、アメリカの場合は「学校の部活だけでなく、地域クラブや個人指導を掛け持ちする生徒もいる」「部活がシーズン制なので通年で活動しない」といった点において、現在の日本の中高の部活とは大きく異なります。こうした「1つの部活に全てを捧げない」仕組みについてですが、これは教員の負担軽減という観点だけでなく、部活における若者の育成方針、つまり人間像やスキルにおける目標の設定という観点から考えることも必要だと思います。

まず、スポーツの場合について考えてみることにします。アメリカの場合、例えば野球ですと、全国津々浦々にリトルリーグ、つまり地域の少年野球が存在しており、通常は5歳児から13歳ぐらいまでがこれに属します。学校の部活で野球が始まるのは、だいたい7年生(日本の中学1年生)からですから、つまり、地域スポーツが先で、そこで基礎を習得してから中高の部活に進むイメージです。

季節によってスポーツも変わる

また、中高の部活について言えば、野球があるのは通常は「春のシーズン」つまり、3月から6月に限られています。ですから、大学やプロで野球をやりたいような選手の場合は、通年でプレーするには地域のリーグや、「トラベルチーム」というより広域のリーグに加入します。それとは別に、打撃や投球の個人指導を受けたり、バッティングセンターなど民間の施設で指導を受けることもあります。

一方で、野球選手の場合でも、春以外は別のスポーツ、例えば冬にはバスケットボールとか、秋にはアメリカンフットボールなどの部活に加入することもあります。アメリカの場合、野球とフットボールの双方からドラフト指名される選手が時々出てくるのはそのためです。

音楽の場合は、幼少時の地域活動はあまりないのですが、その代わりバイオリンとか打楽器などについて、幼少時から個人指導を受けるケースは多いです。そこで実力を鍛えておいて、例えば6年生から始まる学校の正課のオーケストラに参加するということはあります。

またオーケストラにしても、マーチングバンドにしても、学校別の楽団(部活というより選択教科の扱いが多いです)に加入するだけでなく、そこで主席奏者になるためのオーディションに勝つために、地域の指導者の個人レッスンを受け続けるケースは多いようです。また、学校の楽団に加えて、よりレベルの高い広域の地域オーケストラとか、州の選抜オーケストラに入団できる場合は、学校と「掛け持ち」で参加することが多くなっています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月

ビジネス

アップル、レアアース磁石購入でMPマテリアルズと契
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story