コラム

アイビーリーグには「スーパー高校生」しか入れないのか

2014年07月31日(木)17時53分

 日本の高校生の間で、海外、特にアメリカの「アイビーリーグ」8校をはじめとした名門大学を目指す動きが活発になっています。大学院ではなく、18歳の時点で大学1年生からの「学部留学」を目指す動きです。こうしたニーズを受けて、多くの予備校が「海外名門大学進学コース」などを設置しています。

 ですが、実際に日本から直接出願してアメリカの名門大学に合格する例は、まだ大変に少ないのが実情です。アイビーの8校では、各校に毎年一桁の前半という数しか合格していないし、その多くが帰国子女か、既に自分の研究テーマを持っているような「スーパー高校生」のようです。

 では、日本でずっと小中高の教育を受けてきた普通の高校生には、アメリカの名門大学への進学は不可能なのでしょうか?

 今回『アイビーリーグの入り方』(阪急コミュニケーションズ刊)を執筆したのは、「そうではない」ことを訴えたかったからです。そして「合格のために何をすればいいのか?」という観点から、「日本の受験制度と180度違う世界」をできるだけ分かりやすく記述するように心がけました。

 詳しくは本書を読んでいただきたいのですが、日本で言う「スーパー高校生」でないとして、一体何をすればアメリカの名門大学に合格できるのでしょうか? この点に関しても、日本ではまだ十分に知られていないか、誤解があるようです。ここでは3点指摘したいと思います。

(1)「確かな学力を積み上げれば合格圏に届く」
 アイビーの入試というと、天才級の学力であるとか、科学オリンピックでの入賞などという「突出した」成果が評価されるようなイメージがあります。もちろん、内容のある「突出」であれば大いに評価されるのですが、そうではなくてコツコツと学力を積み上げることでも十分に評価されます。

 理数系の科目で2点例をあげますと、まず数学では日本の「数Ⅲ」レベルをしっかりやって、理系の場合は、その上に微分方程式、多変数微積分の基礎を履修しておくことが求められます。文系の場合も微積分は必須です。また、日本の高校レベルでは学習機会の少ない統計学も、初歩を履修しておくことが必要でしょう。これも文理共通です。

 もう1つは理科です。日本の大学入試では、一部の医学部を除いて理科系の場合でも受験科目は2科目でいいことになっています。これでは困ります。物理、化学、生物の主要3科目について、日本で言う「Ⅱ」のレベルまでしっかりやって、統一テスト(AP、IB、SAT2)で学力の証明をしておくことが必要です。

 こうした成果を高校3年の秋までにあげるのは確かに大変です。ですが、「スーパー高校生」でなくても、コツコツとこうした学力を積み重ねていけば、アメリカの名門大学は歓迎してくれます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

中国、自動車下取りに補助金 需要喚起へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story