コラム

「排外発言」とは正反対だった「舞の海氏の講演」(前回エントリのお詫びと訂正)

2014年05月28日(水)11時03分

 昨日(27日)アップした大相撲に関するエントリで、舞の海秀平氏が講演で「外国人力士排斥発言」を行ったという報道を受けてコメントしましたが、その後、アラスカ在住の好角家の方から指摘があり、その講演の内容全体を動画サイトで閲覧することができました。

 結論から言えば、舞の海氏の発言は報じられていたのとは180度異なり、むしろモンゴル出身力士をはじめとした外国人力士へのリスペクトに溢れたものでした。まずもって、お詫びと共に訂正をさせていただきます。

 この講演から明らかなのは、舞の海氏もまた相撲文化の素晴らしい継承者であるということであり、その素晴らしい弁舌も含めて、名講演と言っても過言ではないと思います。

 この講演で舞の海氏の指摘したのは、以下のような点です。

「相撲の発祥地はモンゴル。東進して韓国経由で日本に伝わった。西進したものは現在トルコなどにも伝えられている。

「日本の歴史上初めて相撲が登場するのは、皇極天皇時代に百済の大使を饗応するために宮中で行われたという記録」

「その後、武士の文化として継承されるも室町には衰退。再興したのは信長」

「明治維新後は裸体禁止令などに引っかかり消滅の危機もあったが、明治天皇の天覧相撲で地位を確立して現在に至る。賜杯が生まれたのは大正末期の摂政宮時代」

「現在の相撲を支えているのは外国人力士。今、横綱の土俵入りが見られるのはモンゴル人力士がいるから」

「モンゴル人は頑張って成功して家族に仕送りをするという決意があるから強くなる。日本人は3年から5年やってダメなら田舎に帰って仕事でも探そうという人が多い。中には朝入門してその日のうちに帰る人もいる」

「外国人力士に関しては、高見山をスカウトした時点から後戻りはできない。今、モンゴル人力士を排除したら、モンゴルとの外交問題になり、レアアースを輸出してもらえなくなる(笑)」

「日本人は体重で勝とうとするから弱い。モンゴル人は入門当初は60キロ程度だが、鍛えて筋肉をつけるから強い」

 こんな内容です。この後には、曙関との迷(?)勝負に関する面白い紹介が続くのですが、その中でも曙関へのリスペクトは欠かしていませんでした。

 要するに、そのどこにも「排外」という主張はないばかりか、モンゴル人力士へのリスペクトに溢れ、むしろ日本人の若い入門者に猛省を促す内容とすら言えます。前回のエントリで触れた「小兵力士の矜持」ということに関しても、名調子と言っていいようなユーモア感覚で見事に表現していました。

 さらに言えば、この講演は、基本的に「昭和の日を祝う」という主旨の、従って保守的な観客が過半であると思われる行事での講演だったわけです。ですが、天皇への賛辞や感謝に関しては一つ一つ史実を丁寧にたどっていましたし、場合によっては「天皇陛下」という呼称と「天皇」という用語を使い分けて、過剰敬語にならない工夫をするなど、非常に知的でバランス感覚に溢れたものであったと思います。それでいて、聴衆に対して不快感は与えず、しかもエンターテインメント性も加えているのですから、正にプロの講演に他なりません。

 外国人力士に関しては、排斥の声があるという指摘をした時点で、場内から拍手とともに「先生ガンバレ」という掛け声が飛んだのは事実ですが、これに対しても、舞の海氏は「それはできません」とキッパリ取り下げていました。

 いずれにしても、特定のイデオロギーを前提としたものとはいえ、私が当初参考にした『週刊金曜日』の記事は全く講演内容を歪曲して報道しているとしか言いようがありません。この記事の表現では、舞の海氏の講演の主旨と全く正反対の印象が伝播することになります。今回は偶然ですが、一次情報が入手できたのでこうして訂正も可能ですが、以降は私としても十分に注意していきたいと思います。

 一つだけ申し上げておきたいのは、百歩譲って「昭和の日を祝う」という行事全体について政治的に反対の立場からの報道であるにしても、講師の舞の海氏は、特定のイデオロギーを持った主催団体、そして過半数の聴衆を前にして、実にバランス感覚あふれる慎重な表現に終始していたわけです。その点を全く異なる印象の記事に仕立てるということは、ジャーナリズムとして実に残念だということです。

 本来でしたら、元記事は削除した上で訂正とお詫びをするのが自然とも思いましたが、この『週刊金曜日』の報道が一人歩きする中で、まだまだ舞の海氏への誤解が残っている可能性もあります。従いまして、あえて元記事は削除しないで、講演の本来の内容の紹介も含めて長い訂正記事をアップさせていただくことにしました。

 改めまして、舞の海秀平氏にはお詫びを申し上げますし、万が一白鵬関やその周辺に舞の海氏への誤解が残っているようでしたら、どうぞ誤解を解くようにお願いしたいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は続伸、一時初の4万5000円 米ハ

ワールド

EU、気候変動対策の新目標で期限内合意見えず 暫定

ワールド

仏新首相、フィッチの格下げで険しさ増す政策運営 歳

ビジネス

消費税率引き下げることは適当でない=加藤財務相
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story