コラム

消費税アップに対応した「非接触式IC乗車券」、東京五輪ではどうなる?

2014年04月03日(木)16時59分

 今回の消費税率アップにあたってJR東日本は、切符の値段は10円単位とする一方で、電子マネーでの料金は1円単位に「変える」という決断をしました。切符の自販機では1円単位の支払いに対応できない一方で、「Suica」などの電子マネーでは対応可能という条件下、できるだけ「便乗値上げ」を避けるための措置であり、基本的には好評のようです。

 一部に、JR東日本管内で乗車したために、「残高が1円単位になっている」乗客の場合は、その電子マネーのカードをJR西日本管内で使用したところ、エラーが出てしまったという事件もありました。こちらは、比較的早期に原因が究明されて、修復もされているようです。

 とりあえず消費税率アップに関しては、大きな混乱もなく移行ができたようですが、やはり日本の、特に首都圏の鉄道網に関しては、料金体系が複雑過ぎると思います。東京五輪が6年4カ月後に迫る中、外国から多数訪れる観戦客への対応はよく考えておく必要があると思います。

 この点に関しては、昨年10月に招致が決まった際にこの欄で「統一料金切符」を発行してはどうかという提案をしましたが、外国人観光客にはやはり効果的だと思います。というのは、最近、京都に行く機会があったのですが、京都の場合は京都市バスが中心になって「1日500円のバス乗り放題パス」が好評でした。最近では京阪系列の京都バスも乗れるようになっており、嵯峨・嵐山地区まで適用範囲が拡大される中で外国人観光客の「足」として定着しています。

 首都圏の鉄道の話に戻りますが、東京五輪の頃までには、こうした「非接触式」の切符というのが更に一般的になる一方で、人の流れということではもっとスピーディになっていることが考えられます。ですから、2020年という時点での外国人観光客の輸送体制を考えると、鉄道やバスの料金収受は基本的に「非接触式」というのを前提に考えるべきだと思います。

 この「非接触式」に関して言えば、これから2020年までの間に「非接触式」の技術が更に数世代先まで進化するということを考えておかねばなりません。この問題では、とりあえず、FeliCa からNFC(近距離無線通信)という動きがある一方で、アップル社はNFCには否定的で、iBeaconという Bluetooth を応用したプロトコル、あるいは様々な近距離無線通信プロトコルを統合したものを模索しています。そう考えると、今から6年という時間を考えると、想像を越えた進化をしていることが予想されます。

 ここは何としても、この東京五輪をオールジャパンとしての「新しい近距離無線通信プロトコル」の発表、普及の場にして行きたいものです。海外から来るお客さんには、端末を無料で貸し出すぐらいやってもいいし、(そもそも端末という概念がどうなっているか分かりませんが)とにかく、日本のエレクトロニクス産業の存在感を見せるのです。日本のレベルの先進国・成熟国家で五輪をやる以上は、そのぐらいの心意気で臨みたいものです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

為替、基調的物価に無視できない影響なら政策の判断材

ビジネス

訂正野村HD、1―3月期純利益は前年比7.7倍 全

ビジネス

村田製の今期4割の営業増益予想、電池事業で前年に5

ビジネス

米資産運用会社の銀行投資巡る監督強化案、当局が採決
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story