コラム

博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日本社会の側にある

2025年04月02日(水)11時50分

日本で人文系の博士号を取得しても研究を継続するのは難しい photoAC

<問題の本質は、日本人の学生が人文系の博士課程に行かなくなったこと>

東京大学などで大学院博士課程に占める、中国など留学生の比率が問題になっています。一部の政治家が主張している内容によれば、東京大学では中国人留学生は2008年度の727人から徐々に増加し、昨年度は3396人と4倍以上になっているそうです。

また、奨学金の多くが留学生に渡っていることを問題視する声もあります。博士課程の学生に対して1人あたり最大で年間290万円を支給する制度(次世代研究者挑戦的研究プログラム「通称SPRING」)で受給を受けている人が昨年度では、全体で1万564人だったそうですが、その約4割の4125人が外国人留学生、また、その中の2904人を中国人留学生が占めていたそうです。


運営費の過半が税金によって成り立っている国公立大学の博士課程において、実際に学んでいるのが外国人学生ということになれば、確かに税金の使い道として「疑問だ」という印象を引き出すのは簡単です。また、これが先端技術の研究であれば、価値観を共有していない他国に技術が漏洩されるリスクは抑制すべきでしょう。

ただ、先端技術の保護という問題については、経済安全保障の枠組みで試行錯誤を繰り返しつつも、対応は取れるようになっています。問題は、人文系の博士課程です。人文系の博士課程というのは、例えば日本の文学とか歴史など、自国の文化を対象としたものがあります。経済学や哲学の場合はもっとユニバーサルで研究対象は全世界ですが、日本語で研究し論文を蓄積していくということでは、日本の学術研究に参加するわけです。

東大大学院が「ジャック」されている?

そうした人文系などの分野でも、博士過程に圧倒的な割合で留学生が学んでいるのです。まるで「東大大学院がジャックされている」ように見えるこの現象ですが、問題の本質は、留学生の側にあるのではありません。そうではなくて、

「日本人学生が人文系の博士課程に行かない」

という現象があるからです。留学生が増えたのではなく、日本人が行かなくなったのです。そこが問題で、もしも日本人と留学生のバランスを取りたいのであれば、この点を見つめて対策を講じる必要があります。原因は3つぐらいあると考えられます。

1つ目は、大学教員の需要と供給についてです。日本人が日本の大学で、人文系の博士号を取ったとします。その場合に、その業績を活かしながら研究を続けるのであれば、大学の教員や研究所の研究員など研究職を目指すことになります。ところが、これは大変に難しいのです。

まず少子化で大学全体の定員が過剰になっています。経営に行き詰まる大学も増えてきており、その分だけ大学教員の定員も減りつつあります。また、ただでさえ少ない大学教員の「空きポジション」について、大学としては英語圏など外国に留学して博士号を取った人材や、外国人を優先して採用する傾向もあります。大学を国際化するのは国策として急務だからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

IMF、中国26年成長率予測4.5%に維持 不動産

ビジネス

リオティント、通期利益が予想に届かず 鉄鉱石価格の

ワールド

アングル:「被告になる時間はない」トランプ氏、起こ

ビジネス

米大手テック企業の債券発行規模、今年の予測を上方修
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポーランドが「核武装」に意欲、NATO諸国も米国の核の傘を信用できず
  • 2
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 3
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 4
    中道「大敗北」、最大の原因は「高市ブーム」ではな…
  • 5
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 6
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 7
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 8
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 9
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 10
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 4
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story