コラム

迷惑系外国人インフルエンサー、その根底にある見過ごせない人種差別

2025年04月23日(水)15時15分

動画拡散の根底にあるのは異文化を見下す視点 Arthur Perset, Hans Lucas-REUTERS

<迷惑動画もその切り取り動画も、関心は周囲の無反応な日本人に向いている>

外国人インフルエンサーによる日本での迷惑行為が話題になっています。通勤電車内でダンスをしたり、スピーカーを持ち込んで大音量の音楽を流したりして、これを面白おかしい動画に仕立てて拡散するのです。最近では、渋谷のスクランブル交差点で青信号の間に交差点内でバク転をしたり、やりたい放題といった感じです。

一方で、この種の動画を切り抜いた形で、「迷惑です」とか「日本では禁止ですよ」「もう日本に来ちゃダメ」といったコメントの動画が英語でもアップされています。この種の注意喚起の動画も意外にバズっているようです。


この問題ですが、動画のネタを求めて行う行為が迷惑だから取り締まれ、という声が多いようですが、話はそんなに単純ではないと思います。なぜならば、動画の核心にあるネタは迷惑行為ではないからです。そうではなくて、これを冷たい目で見つめながら無反応を続ける日本人、こちらが動画の主題になっているからです。

どういうことかというと、例えば小学校のクラスの中に、めったに笑わない優等生がいたとします。よせばいいのに、この優等生を笑わそうと、悪ガキが「変顔」を見せるとします。それでも、優等生は笑いません。すると、悪ガキは「変顔」を更にエスカレートさせていきます。

動画のテーマは「仮面のように凍りついた周囲の日本人」

それでも優等生は笑わない、そうすると最後には悪ガキは、優等生をくすぐろうとしたり、あるいは怒ってみたり明らかな迷惑行為にエスカレートして担任の先生にお目玉を食らうことになります。今回話題になっている迷惑系の動画というのは、この構図に似ています。

笑わない優等生に対して、行為がエスカレートしていくわけですが、仮にこのシーンの全体像を動画にするのであれば、最初は変顔攻撃をしている悪ガキが主役です。ですが、行為がエスカレートしていくにつれて、動画のフォーカスは「笑わない優等生」に移動していきます。変顔攻撃がエスカレートするのと、いつまでも笑わない優等生の対比とか緊張関係も「面白い」わけですが、それ以上に「笑わない優等生」の不思議さ、突き抜け感、例外的な感じが「面白いテーマ」になっていきます。

現在、この迷惑系インフルエンサーがやっているのは、これです。動画のテーマは、もはや自分の迷惑行為ではありません。どんどん行為をエスカレートさせているのに、笑わないし、直接注意もしない「仮面のように凍りついた周囲の日本人」へと動画のテーマが移っているのです。バズっているのは、そのためです。反社会行為がまかり通ることで爽快感を得ているのではないのです。

ちなみに、英語による注意喚起動画も一見すると正義の味方のようですが、動画全体としてニュアンスは微妙なものが多いです。迷惑行為はダメだよと言いながら、切り抜いた動画としては「反応しない日本人との対比」を見つめる視線が感じられるのです。その奥には「笑わない日本人の神秘性」的な取り上げ方が見え隠れします。注意喚起系でもそうなのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story