コラム

ベネズエラ船撃沈事件に揺れるペンタゴン

2025年12月03日(水)17時00分

反省の色を見せないヘグセス(写真右)の態度は政権のダメージになりつつある Brian Snyder-REUTERS

<麻薬マフィアと見られる船舶を攻撃して逃げ出した船員まで殺害したことで、ヘグセス国防長官への批判が高まっている>

第二次トランプ政権発足以降、カリブ海における米軍による「麻薬マフィア摘発」が活発化しています。基本的には麻薬密輸に関与している疑いのある船舶に対して警告を発し、応戦もしくは逃走した場合には攻撃するという作戦が取られています。

トランプ政権は、ベネズエラの現状を厳しく批判しており、マドゥロ政権には退陣を要求するとともに、空域の封鎖を行うなど、かなりキナ臭い状況になっています。その一方で、悪しき政権による悪しき状況から身を守るためにアメリカへの入国を要請した難民申請者については、全く同情の姿勢を見せずに入国を拒否しています。とにかく、ベネズエラの現状の全てを否定するといった態度です。


ベネズエラに関しては、反米的で親ロシアのマドゥロ政権、政権に迫害を受けている住民、海上ルートでアメリカに麻薬を密輸しているマフィアの3者について、トランプ政権は「全て排除」したいようです。その「排除」ですが、法的根拠はあいまいで、難民申請者を拒否するのも、麻薬船を攻撃するのも「アメリカが移民や麻薬によって侵略されている」から防衛しているだけという「論理」を根拠にしています。

そんな中で、9月2日に行われた麻薬マフィアのものと思われる海賊船に対する攻撃が問題になっています。第一撃で破壊された船舶から海に飛び込んだ乗務員などがまだ生存しているのを確認しながら、救命措置を行わなかったばかりか、結果的に彼らを殺害することになる第二弾の攻撃を実施したのです。この2回目の攻撃については、ヘグセス国防長官が直接命じたものであり、この事実が明るみに出たことで、大問題になっています。

反省の色を見せないヘグセス

ヘグセス氏は問題を軽く見ており、攻撃をジョークにするようなメッセージを出したりしていますが、トランプ大統領は徐々にこの件について距離を取るようになってきています。この問題ですが、背景が非常に複雑であり、現時点では様々な要素が混じり合っています。

1つ目は、ヘグセス国防長官の態度ですが、問題が騒動になってからも特別に反省の色を見せてはいません。以前に個人的なツイートで機密事項を漏らした際もそうですが、トランプ政権の行動、それも右派的な政策であれば、極端であったり超法規的であっても最終的には許されると思っているようです。

2つ目は、トランプ大統領の慎重姿勢ですが、別に紳士ぶっているのではないようです。そうではあるのですが、マドゥロ政権に対しては、それこそ「戦争も辞さず」というような強硬姿勢を取っている中では、国連を無視することはできません。そこへ飛び込んできたのがヘグセス氏の「海賊へのトドメの一撃」という「戦争犯罪」容疑というのは、米外交にとってマイナスになる可能性があります。国務長官や国連大使にとっては「仕事がやりにくく」なるからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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