コラム

グーグルへの公取「排除命令」は、日本のデジタル赤字対策になるか?

2025年04月16日(水)15時45分

米カリフォルニア州のグーグル本社 Stella Venohr/DPA/REUTERS

<日本資本のデジタルプラットフォームが成立しない理由はいくつかある>

日本の公正取引委員会は4月15日に、グーグルに対し、スマホに「クローム」などの検索アプリを搭載させ、アイコンを目立つ位置に配置させるなどの行為は、独占禁止法違反にあたるとして「排除措置命令」を行いました。具体的には、公正取引に違反しているので、すみやかに違法行為を止めさせ、市場の競争環境を回復させ、また再発を防止せよというのですが、よく考えてみると妙な話です。

まず、「クローム」をほぼ自動的に既定のブラウザに設定するのはおかしいというのですが、もっと自由に競争させるとしたら、その対象はヤフーなどになります。ですが、現時点ではヤフージャパンの検索エンジンはグーグルですから、手数料などが多少別の動きをする以外は基本的に「競争」にはなりません。


またヤフージャパンが、検索エンジンをマイクロソフトなどに乗り換えたとしても、相手が外資であることは変わらないので、日本の民族資本のテック企業との公正な競争が促進されることにはなりません。

グーグルの最大のライバルは、アップルの iPhone ですが、こちらはOSと検索エンジンの提供企業が同一(ハードウェアも同じです)なので、抱き合わせ販売にそもそも競争はありません。ですから、同じ方法でアップルに規制をかけることはできないわけです。

対抗できる日本の検索サービスは存在しない

公正取引委員会が、アメリカの巨大なテック企業に対して摘発をするというのは、確かに「デジタル赤字」に悩む日本としては、何となく反撃になったような印象を与えることにはなります。ですが、仮に「競争」を活性化できたとして、そもそも検索サービスのビジネスに関しては、対抗できる民族資本が存在しない以上は、摘発自体にほとんど意味はないと思います。

どうして、日本独自の検索サービスが育たなかったのかというと、著作権法の改正が進まないからです。20世紀末に急速にインターネットが普及する中で、スタンフォード大の学生、ブリンとペイジというコンビが、グーグルという検索サービスを創業したのが1998年9月でした。実はその3カ月前に日本の東芝が「フレッシュアイ」という検索エンジンを発明しています。

当時に試用した記憶としては、米ヤフーのエンジンより高速であり、将来が楽しみという印象を持ったのを覚えています。その後、「フレッシュアイ」は電通や凸版印刷などが参加して拡大が期待されましたが、21世紀に入るとヤフーのエンジンを使うようになり、やがて検索サービスではなく、検索ポータルという位置付けに縮小され、それでも2024年まで存続して消滅しました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ENEOSHD、26年3月期予想を下方修正 原油安

ビジネス

アシックス、通期予想を上方修正 オニツカタイガー好

ワールド

米国で感謝祭休暇期間のバス・鉄道利用急増、航空便の

ワールド

英国、公共サービスのサイバー攻撃対策を強化へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 8
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 9
    【銘柄】エヌビディアとの提携発表で株価が急騰...か…
  • 10
    【クイズ】韓国でGoogleマップが機能しない「意外な…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story