Picture Power

【写真特集】ベイルート爆発事故、残された分断と絶望

DEVASTATED HOPE

Photographs by GIANMARCO MARAVIGLIA

2021年06月05日(土)13時30分

事故は首都ベイルートの港で起きたが、港湾施設や貯蔵庫が爆発のエネルギーを吸収し、市街地への被害拡大を緩和させた

<爆発によって破壊されたのは、建物よりも秩序や将来への希望だった>

死者220人以上、自宅を失った人30万人以上――。レバノンの首都ベイルートを襲った昨年8月の港湾爆発事故から半年が経過した(本誌掲載時)。港湾施設に保管されていた大量の硝酸アンモニウムが原因とされる爆発の爪痕は、今も生々しく残っている。

折からの経済危機と新型コロナウイルスの感染拡大に伴うロックダウン(都市封鎖)と相まって、爆発事故は物質的な損害にとどまらず社会の分断や差別に拍車を掛けた。爆発によって破壊されたのは建物よりも、秩序や将来への希望だったと思えるほどだ。

なかでも深刻なのは、150万人を超えるシリア難民に対する憎悪だ。生活苦や不便な暮らしでたまった怒りが彼らに向かい、昨年12月には北部トリポリ近郊にある難民キャンプで放火事件が起きた。

一方で爆発事故は、レバノンの若者たちを岐路に立たせている。2019年10月には経済的な苦境や増税への反発に端を発した抗議デモで首相を辞任に追い込むなど、彼らは改革への期待を膨らませていた。だが今は、希望なき街から脱出するか、それとも国家再建へ尽力すべきか、そのはざまで揺れている。

ppleba02.jpg

元フランス語教師のテリーザ・アサフ(80)は乳癌のため乳房切除手術を受けた後に化学療法を続けていたが、新型コロナや爆発事故の影響で治療を中断。貯金をはたいて購入した自宅は爆発事故の被害に遭ったが、非営利組織による復興プロジェクトによって修復された

ppleba03.jpg

爆発事故と新型コロナの感染拡大による最大の犠牲者は若者だ。音楽などを含む一切の文化活動の制限や、外出禁止令などによる経済的影響を最も受けている。ギタリストとしてバンドに参加したばかりのラミ・ジョーラク(16、右端)は「今は音楽だけが救い」と語る

ppleba04.jpg

1965年に建設が始まっていながら度重なる戦火でいまだ未完の大型商業施設は、若者たちによる政府への抗議活動の拠点だった

ppleba05.jpg

ビザンチン帝国時代に起源を持つ名家スルソーク家が所有する宮殿も爆発事故の被害を受けた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

企業向けサービス価格、4月は前年比2.8%上昇 伸

ワールド

大型サイクロン上陸のバングラ・インドで大規模停電、

ワールド

EU、競争力強化に「著しい努力必要」 独仏首脳が連

ビジネス

中国の不動産市場支援策、小規模都市の銀行にリスクも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 2

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 5

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 6

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏…

  • 7

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 8

    台湾を威嚇する中国になぜかべったり、国民党は共産…

  • 9

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧…

  • 10

    トランプ&米共和党、「捕まえて殺す」流儀への謎の執…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story