最新記事
政策提言

米中貿易戦争「対中投資制限はアメリカの自縄自縛に」米中両政府への提言

THE US CAN’T WIN THIS TRADE WAR

2024年5月27日(月)16時00分
徐奇渊(シュイ・チーユアン、中国社会科学院世界政治経済研究所)
米中貿易戦争で「対中投資制限はアメリカの自縄自縛に」米中両政府への提言

人民元安を背景に中国の対米輸出は増え続けている(浙江省の寧波舟山港) VCG/GETTY IMAGES

<大統領選を前に、米中貿易戦争はさらに激化する様相だ。その実態の政治経済分析を踏まえて、米中両国の利益となすべき政策を中国人研究者が双方に大胆提言する>

中国製造業の生産能力が過剰だというのは本当だろうか。4月上旬に訪中したアメリカのイエレン財務長官は「不自然に安い中国製品が世界中の市場にあふれて」いては「アメリカや諸外国の企業はやっていけなくなる」と主張し、状況は10年前と同じだと苦言を呈した。

この主張は、部分的には正しい。アメリカとの貿易戦争のおかげで、中国企業の輸出競争力は(弱まるどころか)強まった。これは事実だ。世界の輸出総額に占める中国のシェアは2023年実績で14%、貿易戦争前の17年よりも1.3ポイント増えた。

23年の貿易黒字は約8230億ドルで、17年当時の2倍に迫る水準だった。

17年当時、中国の貿易黒字が膨らんだのは主として人民元が安すぎたせいだ。現在の状況も似たようなもので、筆者の試算では23年時点の人民元は対ドルで16%も過小評価されていた。そのため中国からの輸出が増え、貿易黒字も膨らんだ。

過去2年間のアメリカのインフレ率は、中国のそれより10%も高かった。だから購買力平価で見れば、人民元は対ドルで10%上昇していい。だが実際は11%も下がっていた。

つまり、人民元は実質的に21%も過小評価されていたことになる。

もちろん、短期の為替レートはインフレ率よりも金利差による影響が大きい。そこで私は、金利スプレッドや経済成長率などの要素も織り込んだ計算式で、人民元のあるべき為替レートを推計してみた。

結果、人民元は過去2年間、東南アジア諸国の主要通貨に比べて(対ドルで)大幅に過小評価されていたことが分かった。15年から18年にかけてアメリカの金利が急上昇した時期と比べても、人民元の過小評価は甚だしい。

しかし、この間に中国政府が為替レートを操作した形跡はない。この点はアメリカ政府も認めている。つまり、現状は中国が「為替操作国」に認定された19年当時とは違う。今の人民元の相場は、もっぱら市場に左右されている。

ではなぜ、人民元は今も過小評価されているのか。

20年と21年の国際収支を見ると、直接投資と証券投資による資本の純流入額は総額4000億ドルを超えていたが、22年と23年には純流出額が5000億ドルを超えていた。こんなに多額の資本流出が続いていたら、いくら経常収支が大幅な黒字でも人民元は上がらない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベネズエラ、今月初めの米軍による攻撃で兵士47人死

ワールド

EU、重要インフラでの中国製機器の使用を禁止へ=F

ワールド

イラン抗議デモ、死者3000人超と人権団体 街中は

ワールド

韓国、米のAI半導体関税の影響は限定的 今後の展開
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向」語る中、途方に暮れる個人旅行者たち
  • 2
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手がベネズエラ投資に慎重な理由
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 5
    鉛筆やフォークを持てない、1人でトイレにも行けない…
  • 6
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 9
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」…
  • 10
    シャーロット英王女、「カリスマ的な貫禄」を見せつ…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 8
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 9
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 10
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中