コラム

大谷翔平の「男気」巨額契約は本当に美談なのか?

2024年01月13日(土)21時15分
2050年、神と化した大谷選手兼任監督

今回のAIイラスト:2050年、神と化した大谷選手兼任監督(AI GENERATED ART BY NEWSWEEK JAPAN VIA STABLE DIFFUSION)

<スポーツ紙的な浪花節と相性の悪かった大谷だが、ドジャースと巨額の後払い式契約を結び、チームのため「男気」を見せたと書き立てられた。だが果たしてぜいたく税の回避は美談なのだろうか?>

私はスポーツ新聞が大好きだ。ド派手な見出しでにぎやかな紙面。毎日お祭りみたいでワクワクする。ただ、ここ10年ほどひそかに思ってきた。「新聞と大谷翔平は相性が悪いのでは?」。スポーツ新聞や一般紙のスポーツ面は大仰な表現、浪花節的語り、美談が得意だ。だからプロ野球や相撲など伝統的ジャンルと相性がいい。

だが大谷翔平はこうした「活字野球」には合わない印象がある。プレーそのものがすごすぎて大仰な表現が安っぽく見えてしまうのだ。例えば次の見出し。

「男気 黒田が魅せた」
「怪物 大谷が決めた」

これは2016年10月の日本シリーズ第3戦を伝えた朝日新聞スポーツ面の見出しだ。

大谷がスポーツ紙に「ハマった」瞬間

当時の日本ハムには大谷がいて広島カープには黒田博樹投手がいた。黒田は大リーグの高年俸を蹴って広島に復帰したことが浪花節的に伝えられるなど、スポーツ新聞映えするスターだった。ここでも「男気」と書かれている。

一方でサヨナラ打の大谷を「怪物」と呼ぶ表現は全くピンとこなかった。アスリートとして優れていることを無理やり怪物と呼んでもなぁ。大仰な表現と大谷は相性が悪い。当時からそう感じていた。

ところがである。そんな大谷がついに浪花節的な見出しにハマったのだ。昨年12月にドジャースとの巨額の契約を発表したときだ。

米メディアによると10年7億ドル(約1000億円)の約97%が後払いで、年俸は200万ドル(約2億8600万円)。これでチーム年俸総額が一定額を超えると課されるぜいたく税を回避でき、ドジャースはさらなる補強を進められるという。

これを報じた日本のスポーツ新聞の見出しをいくつか紹介しよう(12月13日分)。

「大谷 986億円後払い! スーパー男気契約だった」(サンスポ)
「大谷 世界が驚く男気契約 97%後払い」(日刊スポーツ)

きたー、「男気」! 浪花節が合わないと思っていた大谷が「男気」である! チームのため後払いを選んだのが、スポーツ新聞が大好きな美談にぴったり。ここにきてスポーツ新聞と相性がいい大谷なのである。

プロフィール

プチ鹿島

1970年、長野県生まれ。新聞15紙を読み比べ、スポーツ、文化、政治と幅広いジャンルからニュースを読み解く時事芸人。『ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』(双葉社)、『お笑い公文書2022 こんな日本に誰がした!』(文藝春秋)、『芸人式新聞の読み方」』(幻冬舎)等、著作多数。監督・主演映画に『劇場版センキョナンデス』等。 X(旧Twitter):@pkashima

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story