コラム

「暗号資産」も「仮想通貨」も間違った呼び方です(パックン)

2022年08月13日(土)14時40分

通貨としてのイメージをぬぐおうとして「資産」と呼ぶようになったけど…Dado Ruvic-REUTERS

<この得体の知れないモノを資産や通貨と呼ぶには無理がある。そこで新名称を提案します>

すみません! 「暗号資産」と言わないでいただけますか?

表現は大事だ。何気なく聞くような言い方でも、人の理解やイメージがそこから形成される。表現は社会自体にも影響を及ぼす。スチュワーデスやチェアマン(会長)など、ジェンダーが含まれる表現は「この仕事をするのは女性だ・男性だ」という思い込みにつながるから、キャビン・アテンダント(CA)さんとか、チェアパーソンなどと改められている。昭和育ちの僕にはチェアパーソンがいまだに「椅子人間」に聞こえるけど。

マイナスイメージ込みの表現も差別につながり得るから意識的に言い換えられている。出来ちゃった結婚は授かり婚に。痴呆が認知症に。自殺点がオウンゴールに。AV女優がセクシー女優に。なぜか最近現場では「パックン」が「パックンさん」に。

正しい認識とイメージを広められるようにと、(特に僕ら表現者は)常に事実や社会的な変化と照らし合わせながら言葉遣いを精査しないといけない。なのに最近、日本のメディアは「暗号資産」を無思慮に使い続けている。

アナウンサー、コメンテーター、政治家、著名人、ファイナンシャルアドバイザーなど、立場のある人がこの言い方を繰り返すことで「暗号で安全性が保障された資産」という印象を与えかねない。その認識を広めかねない。それでいいのでしょうか?

「暗号資産」と言う表現は避けるべきだ。理由はこれから説明するが、その間も「暗号資産」と書きたくない。ジレンマだ! とりあえず、ここではビットコイン、イーサリアム、ドージコインなどの「暗〇〇産」を「クリプト」と呼ばせていただこう。その理由も後述します。

ウミネコやハナミズキと一緒?

クリプトには確かに暗号がある。だが、本来の意味では「資産」に当てはまらない。一般的な定義として、資産は換金ができる、価値のある物。現金、株式や債券などの金融商品または不動産などが有名な例だ。商品や物質など有形なものもあれば、特許や著作権など、無形なものもある。なんでもいいんだ。換金ができて、価値のあるものなら。

何とかコインなどは(今は)換金できるから、クリプトには(今は)価値があるということを、もちろん僕も認める。そういう意味で「資産」と見てもいい。(今は)。だが、それでも「暗号資産」という言い方に問題がある。

お金、土地などは「金資産」、「土地資産」などとは一般的には言わないのに、なんでクリプトだけが「暗号資産」と総称に「資産」がつくことになっているのか?

どこにも使えない紙幣、誰も買ってくれない土地、機能していない会社の株式などを持っていても「資産」とは言わない。価値がないから。でも、どこにも使えない、誰も買ってくれない、機能してない「なんとかコイン」でも「暗号資産」という呼ぶことにどうしても違和感を覚える。鳥なのに「ウミネコ」とか、鼻水と関係ないのに「ハナミズキ」などの名称よりも理解に苦しむ。

価値がない可能性のものを「資産」と呼ぶのが間違いだろう。では、なぜそう呼ばれることになったのか?

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story