コラム

「暗号資産」も「仮想通貨」も間違った呼び方です(パックン)

2022年08月13日(土)14時40分

そもそもクリプトは「仮想通貨」と呼ばれていたものだ。しかし、これにも無理があった。通貨の定義は「法律の定めによって一国内に流通する貨幣」(オックスフォード辞典より)となっている。国が発行しておらず、法律の定めもない、どこの機関も価値を保証していないクリプトは明らかに円、ドル、ユーロなどの「通貨」とは違う。

もっと広い定義だと、通貨は「流通手段・支払い手段として機能している貨幣」(Goo国語辞書)となるが、クリプトはこれにも当てはまらない。商品やサービスの買い物にはほぼ100%使えないから。一部の企業は受け付けるというが、それはTカードやポンタカードとか、ポイント制度にもいえること。マイナンバーポイント事業、通称「マイナポイント制度」もあるが、クリプトはそれよりもマイナーだ。条件つきで、一部だけで使えるものは通貨ではない。

クリプト関連の企業はスポーツチームのスポンサーになったり、スタジアムに名前を付けたり、テレビCMを流したりしているが、その契約金の支払いはドルだったり円だったりするはず。クリプトの専門業者でもその「通貨」で実体経済に参加できているわけではない。

仮想空間でしか使えないお金という意味で「仮想通貨」と言っているのならかまわない。ゲームの中の交換手段としては成り立つからね。同様に、斎場でしか使えないコインとか、コスプレ・パーティーでしか使えないコイン、方角的に運気が上がるような間取りでしか使えないコインとかもあっていいだろう。......もうお気付きでしょうか? それぞれ「火葬通貨」、「仮装通貨」、「家相通貨」になる! お後がよろしいようで。

G20ズのみなさんのおかげです

クリプトの通貨としての弱点は、普及率の低さだけでもない。脱税にも、犯罪組織の闇取引にも、マネーロンダリングにも使われやすい上、ハッキングの対象としても狙われやすいため、「通貨」としてとても脆弱だ。

そのため、通貨としての印象を与えないよう、2018年、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれたG20サミット(正確には財務相・中央銀行総裁会合)の声明では「仮想通貨」という呼び方を止めて「暗号資産」という呼称を用いている。こうした国際的動向に準じて日本の国会でも仮想通貨から暗号資産にクリプトの呼称を変更することにした。

はい、すみません。先ほど「暗号資産」と言っている日本のメディアや政府が無思慮だと言い切ったが、そうではない。「暗号資産」の呼び方を公認し、普及させたのがサミットの皆さん。彼らの責任だ。まあ、「仮想通貨」をやめたのは正解だと思うけどね。スーパーチェーン「サミット」のレジでもクリプトは使えないし。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:変わる消費、百貨店が適応模索 インバウン

ビジネス

世界株式指標、来年半ばまでに約5%上昇へ=シティグ

ビジネス

良品計画、25年8月期の営業益予想を700億円へ上

ビジネス

再送-SBI新生銀行、東京証券取引所への再上場を申
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story