コラム

鈴木宗男さんに謝らなきゃ

2017年01月10日(火)16時20分

 ご存じの通り、2014年2月27日にロシアの「覆面特殊部隊」がクリミアの議会を制圧した。もちろん地元の反政府勢力も協力したし、議会制圧のあとに特殊部隊の監視下で住民投票が行われ、併合を選ぶ結果になったのは事実だ。だがロシアが国際法を破り、力によってクリミアを併合したことはもはや国際社会の常識になっている。だからアメリカもEUも日本もロシアに対して厳しい経済制裁を科し、G8から追放したのだ。

 万が一、宗男さんがその常識を覆すような情報を持っていれば、ぜひ聞きたい。ぜひ世界の間違いを正していただきたい。プーチンが潔白であることが分かれば、誰もが日本とロシアの接近に文句は言わない。しかし、その「間違った常識」を正すまではやはり、世界から懸念されることは避けられないはず。

 そんなことを言えばよかったのに、「は!?」しか出てこなかった。失礼な上に大馬鹿野郎だったね、僕。本当にすみません。

【参考記事】遅刻魔プーチンの本当の「思惑」とは

 しかし、一番驚いたのはそのあとだ。宗男さんはこう続けた。「クリミアの住民投票の結果、クリミアの住民はポロシェンコ(大統領)のウクライナよりもプーチンのロシアがいいと言って、ぜひロシアに併合してもらいたいということ(になった)」。さらに、締めとして「私は(クリミア併合は)何も問題ないと思っています。住民投票の結果ですから」と述べた。

 僕はショックで「は!?」すら出てこなかった。一瞬、凝り固まってしまったのだ。そしてその一瞬だけ、妄想した。宗男さんご本人じゃなくて、プリンプリンさんのモノマネだという妄想を。見事なボケだから、相手が突っ込んで、会場が爆笑になるはずだと思った瞬間、白昼夢だったことに気づいた。

 これもご存じでしょうが、オスマン帝国の一部だったクリミア半島は18世紀にロシアが支配した。そしてロシア系の人々が大勢移ってきて、もともと住んでいたタタール人は少数派に。ソ連時代の第2次大戦中には、タタール人が他地域に追放される出来事もあった。50年代にクリミアはウクライナの一部となり、ソ連崩壊の際にロシアとウクライナが、クリミアのウクライナ帰属も含めて、お互いの主権と国境を認める条約を結んだ。

 では、クリミアの住民投票が2014年の併合の正当な理由になるとしたら、北方領土はどうなるのかな? 四島もロシアに支配され、もともと住んでいた日本人が追い出された後にロシア人がたくさん移り住んだ。クリミアと共通点がとても多いよね。もし、安倍さんの猛プッシュの末に、四島、または二島が日本に返還されるとしよう。日本帰属を認める条約が結べても、その後は日本政府の意向や条約の内容と関係なく、島々の住民投票の結果次第でまたロシアが併合していいことになるのか?

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:「高市トレード」に巻き戻しリスク、政策み

ワールド

南アフリカ、8月CPIは前年比+3.3% 予想外に

ビジネス

インドネシア中銀、予想外の利下げ 成長押し上げ狙い

ビジネス

アングル:エフィッシモ、ソフト99のMBOに対抗、
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story