コラム

マイナス金利で日本経済の何が変わるのか

2016年02月01日(月)18時49分

マイナス金利導入で円安が進むのはいいことなのか(写真は1月29日) Yuya Shino-REUTERS

 マイナス金利で日本経済の何が変わるのか──何も変わらない。変わるとすればデフレを引き起こすぐらいだ。

 短期的には円安が進む以外は何も変わらない。消費も投資も実体経済においては増えない。したがって、マイナス金利という日銀の新しい金融緩和策が実体経済に与える影響の評価は、さらなる円安を評価するかどうかにかかっている。そして、円安は過度に進んでいるという見方に立てば、これはプラスではなく、パブロフの犬のような株式市場の短期的な反応を除いてマイナスと考えられる。

 さて、マイナス金利政策とは、市中の銀行が日銀に預けている当座預金の金利が現在のプラス0.1%からマイナス0.1%に変わる、ということだ。それ以上でもそれ以下でもない。この結果、確実に起こることは、銀行がいわば日銀から受け取っていたこのプラス0.1%による補助金、現在では年間2200億円程度が部分的に失われることだけだ。

 もちろん、日銀はこれに配慮して、三層構造のマイナス金利を実施する見込みだ。つまり、これまでの銀行の収益はできるだけ削らずに、新たに増やす当座預金についてのみ、マイナス金利を適用する見込みだ。しかし、逆に言えば、マイナス金利の影響は実質的にはほとんどないことになり、今回のマイナス金利政策の打ち出しは、黒田氏お得意のサプライズを演出しただけで、中身は何もないことになる。

 ただ、金融市場というのは、思い込みだけで成立する。株価が上がると投資家達が思えば、すべての投資家が買いに回り、実際に株は上がる。今回は、為替は確実に円安に進む。マイナス金利で、米国との金利差拡大、さらに一旦マイナス金利となればマイナス拡大の余地はさらにあるということで、金利差は拡大方向、円安に進むとすべての投資家が思い込むことに疑いはなく、ならば円売りで、だからやっぱり確実に円安になる。

【参考記事】「人民元は急落しません!」で(逆に)元売りに走る中国人

 マイナス金利導入を受けて、円は急落、それを受けて輸出関連株は急騰、収益が減ると見込まれる銀行株は急落したが、トータルでは円安イメージが上回り、株価も上昇した。マイナス金利、初日、2日目(2月1日月曜日)はとりあえず成功したとも言える。

実需は増えない

 しかし、成功はここまでだろう。なぜなら、株価の下落は、昨年の日本株バブルの崩壊であり、この2日でその部分は戻したものの、それ以外の下落は、原油の急落による世界的な株安であるから、日銀のマイナス金利は、これを止めることは出来ず、これからの日本株は世界の株に単に連動することになろう。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

村田製の今期予想、4割の営業増益 スマホ向けなど回

ビジネス

日立、6月30日時点の株主に1対5の株式分割

ビジネス

コマツ、発行済み株式の3.5%・1000億円を上限

ビジネス

野村HD、1―3月期純利益は568億円 前年同期比
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story