コラム

欧州議会選挙で極右政党がかつてない躍進──EUが恐れる3つの悪影響

2024年06月14日(金)10時40分
独AfDアリス・ワイデル共同代表

記者会見に臨む独AfDアリス・ワイデル共同代表(6月10日) Annegret Hilse-REUTERS

<極右政党の存在感が増したことで考えられる懸念とは>


・欧州議会選挙で極右政党が躍進し、かつてなく存在感を高めたことは、ヨーロッパ各国の政府にとって無視できないインパクトを秘めている。

・極右政党はEUに懐疑的で、その声が大きくなって各国ごとの裁量が強くなれば、外部から見て “一つの市場” の魅力が失われることになりかねないからだ。

・これに加えて、極右政党が自由や人権に関するヨーロッパのブランド価値を引き下げないか、あるいは中ロの影響力が増すのではという懸念もある。

かつてないスケールの右傾化

EUの立法機関にあたる欧州議会の選挙が6月9日に実施された。各加盟国には人口に応じて議席が割り当てられ、議員は各国ごとの直接選挙で選出される。

今回、最大の焦点は極右政党がどれだけ議席を伸ばすかだった。

極右政党の多くは移民・難民の受け入れ制限、加盟国を統制するEUルールの緩和、同性婚反対などを掲げている。

こうした論調はリーマンショック(2008年)、シリア難民危機(2015年)、新型コロナ感染拡大(2020年)、ウクライナ侵攻(2022年)などによって社会不安が広がり、社会の右傾化が進むなかで段階的に支持を増やしてきた。

今回の選挙で、いずれも極右政党の会派であるEuropean Conservatives and Reformists(ECR)は720議席中73議席、Identity and Democracy(I&D)は58議席を獲得した。それぞれ前回2019年から4議席、9議席の増加だった。

ドイツのための選択肢(AfD)など、こうした会派に参加していない極右政党もあり、それらが約30議席を獲得した。

以上を合計すると約150にのぼるが、それでも議席全体の約20%にとどまる。また、一口に極右政党といっても一枚岩ではない。

しかし、極右政党の存在感がかつてなく大きくなったことは確かで、そのうえ実際の影響力は議席数以上のものがあるとみた方がよい。 “極右” とまでは認知されない主流派の保守系政党のなかにも、極右政党の主張に親近感を抱く議員や支持者が少なくないからだ。

例えば、イギリスで2016年に行われたEU離脱の賛否を問う国民投票も、当時の保守党キャメロン政権が選挙協力と引き換えに、イギリス独立党(UKIP)などの要求を受け入れて行われたものだった。

 “5億人市場” の魅力は保たれるか

極右政党の躍進を受けて、フランスのマクロン大統領は「明白な多数派を示す必要がある」と議会解散・総選挙に踏み切るなど、各国政府は警戒を強めている。

そこには主に3つの懸念がある。

第一に、共通市場としてのEUの求心力低下だ。

極右政党は各国の独立性を重視していて、そこにはヒトやモノの移動、為替政策、環境対策、教育などあらゆる領域における決定権が含まれる。

その裏返しで極右政党は “EU権限の縮小” でほぼ共通する。

リーマンショック後の経済復興やシリア難民危機などでは、EUの規制・ルールが強すぎて、自国の独立が損なわれているという不満が噴出した。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、26年に都市再開発・住宅市場安定化の取り組み

ビジネス

午後3時のドルは156円ちょうど付近へ反落、日銀利

ビジネス

金が最高値更新、米・ベネズエラ緊張で 銀も最高値

ワールド

ボルソナロ氏長男、穏健政策訴えへ 出馬意向のブラジ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story