コラム

周辺の西アフリカ諸国は軍事介入も示唆──邦人も退避、混迷のニジェール情勢の深層

2023年08月04日(金)14時20分
ニジェールからイタリアに逃れてきた欧米人

ニジェールからイタリアに退避してきた欧米の人々(8月2日、ローマ・チャンピーノ空港) Remo Casilli-REUTERS

<ニジェールのクーデターへの周辺国の反応は強い危機感の表れ>


・西アフリカのニジェールではクーデターをきっかけに治安が悪化し、外国人が退避する事態となっている。

・これを受けて周辺国は経済制裁を発動し始めているだけでなく、軍事介入すら検討されている。

・ウクライナ戦争をきっかけにアフリカの多くの国では欧米との温度差が鮮明になっているが、「クーデターの感染」を恐れる点では立場を共有している。

西アフリカの小国を巡る争いは、グローバルな地政学にとっても無関係ではない。

 
 
 
 

周辺国による軍事介入の可能性

7月24日に発生した西アフリカ、ニジェールのクーデターは緊張の度を高めている。クーデターを支持するデモ隊の一部が旧宗主国フランスの大使館に火を放つなど、治安の悪化に日本や欧米各国の国民が相次いで退避しているのだ。

この事態に周辺国も動き始めている。

周辺15カ国(ニジェールを含む)が加盟する西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は8月2日、使節団を派遣し、軍事政権に拘束されたバズム大統領の解放などを求めた。

これと並行して制裁も始まり、その一環として隣国ナイジェリアはニジェール向け電力を停止した。

ナイジェリアはGDPの規模でアフリカ最大を誇る産油国で、ECOWASでも大きな発言力をもつ。

さらに、7月30日に開催されたECOWAS緊急首脳会合では、軍事介入についても検討された。この会合では「大陸の安定を保つために必要なあらゆる手段をとる」ことが確認された。

ECOWASの「実績」

西アフリカはアフリカのなかでも貧困国や小国が目立つ地域だ。それが軍事介入などできるのか、と怪訝に思うかもしれない。

しかし、ECOWASは本来、経済協力を目的に設立された地域機構だが、この方面でも実績を積み重ねてきた。

そのルーツは20年以上前の1990年代、この地域で内戦が頻発した時期にさかのぼる。リベリアやシエラレオネの内戦で多くの犠牲者が発生し、難民も急増したことを受け、ECOWASは部隊を派遣してこれらを平定した。

近年では、2017年にガンビアの当時のジャメ大統領が選挙での敗北を受け入れず、大統領の座に留まり続けて政治危機が深刻化したとき、隣国セネガルの部隊が介入して事態の収拾にあたった。

さらに、2020年と2021年のマリ、2022年のブルキナファソなどで、それぞれクーデターが発生した際、ECOWASは経済制裁を発動した。

ECOWAS加盟国は「内戦などで国内が混乱した場合には介入されることもあり得る」というルールに事前に合意している。混乱が絶えないアフリカならではのローカルルールとも言えるが、ニジェールの場合もこれを拠り所にECOWASは強い態度を見せている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

韓国クーパン創業者、顧客情報大量流出で初めて正式謝

ワールド

中国万科の社債37億元、返済猶予期間を30日に延長

ワールド

中国軍、台湾周辺で「正義の使命」演習開始 30日に

ビジネス

先行きの利上げペース、「数カ月に一回」の声も=日銀
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story