コラム

プーチンの「静かな動員」とは──ロシア国民の身代わりにされる外国人

2023年03月07日(火)17時30分
プーチン

「祖国防衛の日」に無名戦士の墓に詣でるプーチン大統領(2023年2月23日) Sputnik/Mikhail Metzel/Pool via REUTERS

<プーチン政権、ロシア軍がこれまで以上に力を入れる戦力としての外国人リクルートは、国民の徴兵が難しくなっている証。外国人や移民が入隊から逃れられない理由とは>


・兵員不足を補うため、ロシア軍は外国人のリクルートを加速させている。

・その背景には、徴兵に対する国民の批判・不満があまりに強く、ロシア政府がそこに一定の配慮をせざるを得ないことがある。

・いわばロシア人の代わりにされる外国人の多くはロシア在住の外国人労働者で、その弱い立場から逃れることも難しい。

「国民の反発を招かずに兵力を補充する」という離れ技を演じる必要に迫られたプーチン政権は、外国人や移民に目をつけている。

軍務につけば給料は5倍

ロシア政府は1月、軍の改革を発表した。それによると、正規軍の兵員が現状の135万人から150万人に増やされる。

そこには長期化するウクライナでの戦闘による深刻な兵員不足をうかがえるが、リクルートの対象はロシア人よりむしろロシア国内に居住する外国人とみられる。

もともとウクライナ侵攻が始まる以前からロシア軍は、ロシア語を話せるなどの条件を満たす外国人を受け入れていた。軍務を終えた者は優先的に国籍が取得できる(この手法そのものはロシアだけでなくアメリカなど欧米各国でも珍しくない)。

しかし、ウクライナ侵攻後、兵員不足が明らかになるにつれ、外国人リクルートは加速してきた。昨年9月、ロシア軍は勤務期間を5年間から1年間に短縮するなど、外国人の入隊に関する規制を緩和した。

リクルートの主な対象になっているのは、周辺の中央アジア、カフカス、中東などからの外国人労働者で、なかでもロシア国内に約300万人いるとみられるタジキスタン、キルギスタン、ウズベキスタン出身者が中心とみられる。外国人兵士に支給される給与は、他の仕事の平均の5倍ほどといわれる。

その結果、例えば昨年9月には中央アジアのタジキスタン出身者1500人からなる部隊がウクライナに派遣されている。

ロシア政府の危機感

外国人の利用は正規軍だけでなく、ロシア政府の事実上の下部組織である軍事企業ワグネルでも同じだ。

ワグネルなどで雇われる外国人戦闘員も2014年のクリミア危機以降、ウクライナで活動してきたが、その人数はウクライナ侵攻後、中東や中央アジア出身者を中心に急増しているとみられ、去年3月の段階でロシア国防省は1万6000人と発表していた。

1月に発表された軍の拡大にともない、こうした外国人リクルートがさらに加速するとみられるわけだが、それは一般のロシア国民を戦場に駆り立てるのが難しくなっていることと表裏一体の関係にある。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=まちまち、FOMC受け不安定な展開

ワールド

英、パレスチナ国家承認へ トランプ氏の訪英後の今週

ビジネス

NY外為市場=ドル下落後切り返す、FOMC受け荒い

ビジネス

FRB0.25%利下げ、6会合ぶり 雇用にらみ年内
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story