コラム

トランプ「肥だめの国」発言から「二つの人種差別主義」を考える

2018年01月14日(日)18時19分

移民政策についての会合でアフリカや中米からの移民について「肥えだめのような国からなぜあんなにやってくるんだ」と発言したとされるトランプ米大統領 Jonathan Ernst-REUTERS

<植民地時代に完成した人種差別は、これからは先進国のアキレス腱になリかねない>

米国トランプ政権の内幕を暴露した『炎と怒り』が話題となっているなか、1月12日に米国の複数メディアは、前日の移民に関する議員との会合の席上でトランプ大統領がアフリカ諸国やハイチを指して「なぜ『肥だめの国』(shithole countries)からの移民を受け入れているのか」と発言したと報じました。

報道が確かなら、この発言が極めて差別的であることはいうまでもありません。この発言が報じられるや、国連人権高等弁務官事務所のスポークスマンは「人種差別主義というより他ない」と批判。また、名指しされた中南米やアフリカの各国からも批判が噴出する事態となりました。

その結果、報道が出た11日にホワイトハウスは発言内容を否定していませんでしたが、各所からの批判が噴出した翌12日にはトランプ氏が「そのような発言はしていない」と否定。ただし、問題の会議に同席していた民主党のダービン上院議員は報道内容を確認しています

「自分のための」人種差別主義

ところで、報じられている「肥だめの国」という表現があまりに露骨であることは確かとしても、トランプ氏に限らず欧米諸国では、しばしばアフリカや中南米に対する差別的な言動がみられます。他者に対する差別や偏見はあらゆる文化、文明でみられるものですが、経済水準が低い国や地域への偏見は、植民地時代の欧米諸国で完成したといえます。

15世紀の大航海時代からヨーロッパ人は海外進出を加速させ、19世紀末までに世界の大部分を支配していきました。植民地支配は各地から農産物や天然資源を輸入し、自国の工業製品を輸出するという経済システムで、そのなかで資本主義経済や自由貿易は発達しました。そのなかで、有色人種を「劣ったもの」とみなすことは、「優勝劣敗」の原理にのっとって、自らの利益の確保を正当化する論理となったのです。

この人種差別主義は、1930年代に中東欧への侵略を進めたナチスで親衛隊隊長を務めたヒムラーの発言に集約されています。「ロシア人やチェコ人にどんな事態が起こったかということについて、私は寸毫の関心も持たない。...諸民族が繁栄しようと餓死しようと、それが私の関心をひくのは単に我々がその民族を、我々の文化に対する奴隷として必要とする限りにおいてであり、それ以外にはない」(丸山真男『現代政治の思想と行動』より修正して引用)。

「相手のための」人種差別主義

ただし、植民地主義は「それが自国のためになる」という露骨な利己主義だけでなく、「優等人種(白人)による支配が劣等人種(有色人種)のためになる」というイデオロギーにも支えられていました。

19世紀のイギリスの哲学者、J.S.ミルは政治参加や団体交渉を制限されていた女性や労働者の権利を擁護し、奴隷解放を支持するなど、当時としては群をぬいた自由主義者でした。

しかし、そのミルでさえ「未開人を文明化するためにはまず彼らを刺激して新しい欲望を持たせねばならない」(『文明論』より)と論じており、これは植民地主義を正当化する論理を内包していたといえます。ミルの19世紀的な限界は、当時のほとんどの白人が有色人種を支配することに抵抗感がほとんどなかったことをうかがえます。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イランがディール求めて接触、原油高軽減へ近く追加措

ワールド

米代替関税、24州が差し止め求め提訴 トランプ政権

ビジネス

ニデックをB3に格下げ、ガバナンス不全など反映=ム

ワールド

米下院も戦争権限制限案を否決、トランプ氏の対イラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    「え、履いてない?」モルディブ行きの飛行機で撮影された、パイロットの「まさかの姿」にSNS爆笑
  • 3
    「ハリポタ俳優で終わりたくない」...ハリー・メリングが新作『ピリオン』で見せた「別人級」の変身
  • 4
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 5
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 6
    対イラン攻撃に巻き込まれ、湾岸諸国が存立危機
  • 7
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「旅客数が多い空港」ランキン…
  • 9
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 10
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story