コラム

インテルがイスラエルの「自動運転」企業を買収する理由

2017年04月11日(火)12時06分

「企業の戦略と競争」とは、当該地域内における企業間競争が国際的な競争力に影響を与えるレベルにまで高められているかという条件である。特に自動運転の分野においては、イスラエル国内での開発競争が世界における開発競争の縮図となっていることは明らかだろう。

「関連産業・支援産業」とは、当該産業のみならず関連する複数の産業クラスターがお互いに連携し合い競争力やイノベーションを高めているかという条件である。

実際にイスラエルにおいては、自動運転のみならず、IoT、AI、サイバーセキュリティーなどの産業が重なり合って産業クラスターを形成していることが競争力やイノベーションの源泉となっている。

またイスラエルと米国、特にシリコンバレーなどITの最先端地域とは、ユダヤ人のネットワークで緊密につながっていることも見逃せない点だ。シリコンバレーの会社がイスラエルのスタートアップを買収したり、成長段階にあるイスラエルの会社がシリコンバレーに支社を開くことなども頻繁に行われている。

【参考記事】動画:イスラエル発の「空飛ぶロボットタクシー」、初の自律飛行に成功

高速道路の交差点が「立体的である」必要がなくなる

筆者が団長として参加したイスラエル国費招聘リーダーシッププログラムにおいては、1週間の同国滞在のなかで、複数の政府機関・研究機関・大学・民間企業等とのミーティングを行った。なかでも本稿との関連で特筆すべきは、技術大国イスラエルのR&D最高峰の研究機関であるワイツマン科学研究所において行われた、同国のハイテク分野におけるサクセスストーリーの象徴となっているアディ・シャミア博士とのミーティング及び特別講義受講である。

m_tanaka170411-photo.jpg

ワイツマン科学研究所(写真提供:筆者)

アディ・シャミア博士はサイバーセキュリティーの代表的技術であるRSA暗号の開発者の1人であり、現在は博士本人が科学者として育つきっかけとなったワイツマン科学研究所で教授として若手育成や研究を行っている。本年2月の日本とイスラエルの二国間投資協定調印に先行して、国際科学技術財団の日本国際賞をイスラエル初の科学者として受賞した人物でもある。

イスラエルにおける次代の注目企業について尋ねたところ、アディ・シャミア博士はこのような予測を話してくれた。

「従来の高速道路のような立体的なインターチェンジではなく、信号機のない通常の交差点を、自動車が高速のままで行き来できるようになる。すなわち、高速道路でインターチェンジが不要となるところまで自動運転技術の実用化が可能となってくるなかで、位置情報技術×AI×IoTなどが交差する自動運転の分野においては、サイバーセキュリティーがこれからの最注目セグメントになる」

イスラエルの国としての競争戦略は日本としても多いに学ぶべき点が多く、次稿以降のテーマとしていきたい。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行融資、3月も低調 家計向けは10年ぶり

ビジネス

英アングロ、BHPの買収提案拒否 「事業価値を過小

ビジネス

ドル一時急落、154円後半まで約2円 その後急反発

ビジネス

野村HD、1―3月期純利益は前年比7.7倍 全部門
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story