コラム

アマゾンとグーグルの相違点を「経営」から探って分かること

2017年12月15日(金)17時09分

TOP: Kim Kyung-Hoon-REUTERS, BOTTOM: Chris Helgren-REUTERS

<アマゾンは顧客第一主義を行動指針とし、人事制度「OKR」や「1 on 1」を掲げるグーグルは社員の働きやすさに重点を置く。だが、グーグルのシュミットの著書には「ベゾスのピザ2枚のルール」への言及もあり、共通する部分も>

「世界で最も働きやすい会社」に「地球上で最も顧客第一主義の会社」――。グーグルとアマゾンにおける最も重要な社員の行動原理を分析してみると、このような構図が見えてくる。

筆者が団長を務めたイスラエル国費招聘リーダーシッププログラムのメンバーであり、グーグルに勤務したことのある女性起業家によれば、グーグルでは「社員が働きやすい」ということに経営陣や管理職が大きな力を割いていたという。

それに対して、アマゾンジャパンの初期の経営陣の1人であり、アマゾンのCEOであるジェフ・ベゾスとも一緒に働いたことのある知人は、顧客第一主義が同社の最も重要な行動指針になっていたと語っている。

本稿では、筆者の新刊『アマゾンが描く2022年の世界――すべての業界を震撼させる「ベゾスの大戦略」』(PHPビジネス新書)の第5章「アマゾン、驚異のリーダーシップ&マネジメント」から内容を抜粋し、グーグルとアマゾンの相違点をリーダーシップ&マネジメントの視点から論じてみることにしたい。

AIを駆使していても、人と人との対話が重要

グーグルは、近年日本においても「OKR」×「1 on 1」など同社独自の人事制度がIT企業を中心に採用されており、「リーダーシップ×マネジメント」のあり方についても注目されている企業である。

OKRとは、Objective and Key Results(目標と主な結果)の略称であり、全社・セクション・個人で高い一貫性をもって高速でPDCAサイクルを回していく仕組みである。

1 on 1とは、1対1のミーティングのことであるが、グーグルや同社を参考にしているIT企業では、上司が部下を成長させるコミュニケーションの手法として活用されている。その本質は対話することであり、上司が管理者である自分のために行うのではなく、あくまでも部下を育成する目的で行うことが最大の特徴である。

グーグルの人事責任者であるラズロ・ボック氏が書いた『ワーク・ルールズ!』(東洋経済新報社)は、同社の採用・育成・評価の内容が明らかにされているという意味でも参考図書にすべき1冊だ。同書には、「つねに発展的な対話を心がけ、安心と生産性につなげていく」「(上司は部下に)あなたがもっと成功するために、私はどんな手助けができるかという心がけで向き合う」「目標を達成する過程で発展的な対話を促す」「発展的な対話とパフォーマンスのマネジメントを混同しない」などと記されている。

その一方で、採用・育成・評価というグーグルの「ピープル・オペレーションズ」においては、人事に関する膨大なデータが分析されている。主観ではなくデータに基づいて判断するということが人事の要諦として強調されているのがこの本の特徴の1つでもある。「人事ビッグデータ×AI」が駆使されている一方で、発展的な対話が重視されていることに着目すべきだろう。

冒頭で紹介したグーグル勤務経験のある女性起業家は、現在経営する会社においてもグーグル時代と同様に社内での対話を重視し、それが経営の生命線になっていると語っている。「AIの王者」と目されている企業においては、人事ビッグデータ×AIを駆使したあとで、人が最もすべき仕事は人と人との対話であると考えているのだ。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノボ、米で「ウゴービ」値下げ CEO「経口薬に全力

ビジネス

米シェブロン、ルクオイルのロシア国外資産買収を検討

ビジネス

FRBウォラー理事、12月利下げを支持 「労働市場

ワールド

米下院、エプスタイン文書公開巡り18日にも採決 可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story