コラム

犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事件の現場から浮かび上がる「2つの条件」

2025年07月08日(火)11時00分

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本書では、広域強盗事件が発生した場所的要因を中心に論じた。例えば、冒頭で触れた強盗殺人事件の現場を検証すると、次のようになる。分析のツールは「犯罪機会論」だ。

性善説に近い立場から、人はなぜ犯罪をするのかを説明しようとするのが「犯罪原因論」であり、それに対し、性悪説に近い立場から、人はなぜ犯罪をしないのかを説明しようとするのが「犯罪機会論」である。


「犯罪機会論」では、動機があっても、犯行のコストやリスクが高く、犯行によるリターンが低ければ、犯罪は実行されないと考える。半世紀にわたる研究の結果、犯罪が起きやすい場所は、「入りやすい場所」と「見えにくい場所」であることが分かっている。

犯罪者は、この2つの条件が満たされた場所を慎重に選んでいるのだ。そこで、この防犯キーワードを用いて、強盗事件を検証してみよう。

現場となった住居は、建物の規模は大きいが、それほど華美な印象は受けない。しかし、ガレージには数台の車が停められている。ガレージと外部とを隔てているのはフェンス状の仕切りであり、停まっている車種や台数は一目瞭然である。そのため、経済的に余裕があることが外部から推測できる。

高級車を複数台所有しているような家庭では、視線を遮断できるシャッタータイプのガレージの方が望ましい。犯罪者の目を刺激し、犯罪の「機会」を感じさせないためにも、「金目のもの」は見せないことが賢明である。

特異なケースではあるが、住居の隣に設置されている自動販売機が気にかかる。自動販売機が存在するだけで、不特定多数の者が立ち止まっても不自然ではない場所となる。さらに、この自動販売機の横にはベンチやゴミ箱が設置されている。このような状況であれば、購入した飲料をベンチで飲みながら、住居の人の出入りや窓の数・位置といった建物の構造をじっくり観察することが可能である。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

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