コラム

犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事件の現場から浮かび上がる「2つの条件」

2025年07月08日(火)11時00分
強盗

(写真はイメージです) PeopleImages.com - Yuri A-Shutterstock

<強盗殺人事件の現場分析と「犯罪機会論」の視点から、家庭の安全を守るために何ができるかを考える>

2022年から23年にかけて、「ルフィ」などと名乗る指示役のもと、広域強盗事件が相次いで発生した。東京都狛江市では強盗殺人事件にまで発展し、社会に大きな衝撃を与えた。

人々が愕然としたのは、犯人がフィリピンの入国管理局の収容施設にいながら、遠隔で犯行を指示していたという事実である。これを受け、警察はこうした組織を「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」と位置づけ、警戒を強化した。


ところが、昨年8月以降も、首都圏を中心に強盗事件が多発し、神奈川県横浜市では強盗殺人事件も発生した。警察幹部によれば、これらの事件も、「犯行の構図はルフィ事件と同じ」という。

いわゆる「失われた30年」がもたらす閉塞感や不公平感と相まって、社会では、治安の悪化を懸念することが広がってきた。こうした深刻な状況を踏まえて、警察庁は、全国から集めた専従捜査員で、集中的な取締りを行うこと決めた。そのために新設される組織は、10月に発足する見通しだ。

一連の広域強盗事件は、履歴が残らない通信アプリで連絡を取り合い、犯罪ごとにメンバーが入れ替わることなどから、実態の把握が難しい。つまり、「いたちごっこ」になってしまう。

こうした状況を一言で言えば、犯行グループが、トップの指示で動く「ピラミッド型」から、メンバーが独自に分業する「自律分散型」の組織に変わってきていることだ。役割の細分化された自律分散型組織では、一部が摘発されても、残ったメンバーで犯行を続けられる。

ましてや、末端の実行役から指示役をたどっていくのは至難の業だ。要するに、警察の捜査だけでは、自律分散型の犯罪組織を根絶するのは難しい。市民一人ひとりの自衛が、一層求められる所以だ。そこで、筆者は、人々の強盗対策に資する目的で、『犯罪者が目をつける「家」』(青春出版社)を上梓した。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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