コラム

不法投棄に落書き...凶悪事件の現場に見る「割れ窓理論」の重要性

2024年12月10日(火)16時25分
壁の落書き

(写真はイメージです) nnnnutts-Shutterstock

<無秩序が犯罪を誘発する可能性について、栃木小1女児殺害事件と川崎通り魔殺人事件の現場から考える>

2005年12月、栃木県日光市(旧今市市)で小学1年生の女児が下校途中に誘拐され、翌日茨城県常陸大宮市で遺体として発見される事件が発生した。女児は鋭利な刃物で胸を刺され、所持品や着衣は現場に残されていなかった。

事件から8年半後の2014年6月、男が殺人容疑で逮捕された。だが、彼は無実を主張。事件の物証が乏しい中、母親に宛てた「迷惑をかけてごめんなさい」という手紙が証拠として採用され、2020年3月、無期懲役が確定した。もっとも、彼を支援する市民団体は無実を訴え続け、弁護団が再審請求の準備を進めているという。

この事件は、地域社会の無秩序が犯罪を誘発する可能性を改めて浮き彫りにした。事件現場となった通学路周辺の分譲地には、自動車、コンピュータ、冷蔵庫、自転車、タイヤ、洗濯機などが不法投棄されていたからだ(写真①、写真②)。

newsweekjp_20241209064919.jpg

写真① 筆者撮影(以下、すべての写真を筆者が撮影)

newsweekjp_20241209064949.jpg

写真②

また、登下校の近道になったトンネルの壁面に落書きがあった(写真③)。こうした環境が、犯罪を誘発したかもしれない。

newsweekjp_20241209065014.jpg

写真③

この事実を踏まえると、犯罪学で提唱される「割れ窓理論」の重要性が分かる。割れ窓理論とは、ジョージ・ケリングとジェームズ・ウィルソンが1982年に発表した考え方で、「小さな乱れが放置されると、その場所で、さらに大きな乱れを招き、最終的には犯罪を誘発する」とする立場である。つまり、この理論は、環境の秩序維持が犯罪抑止に重要な役割を果たすとするものだ。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、OPECに値下げ再度要求 ウクライナ戦

ワールド

米中外相が電話会談、両国関係や台湾巡り協議 新政権

ビジネス

米1月総合PMI、9カ月ぶり低水準 サービス部門の

ワールド

ハマス、イスラエル軍の女性兵士4人を解放へ 人質交
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ人の過半数はUSスチール問題を「全く知らない」
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄道網が次々と「再国有化」されている
  • 4
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 5
    電気ショックの餌食に...作戦拒否のロシア兵をテーザ…
  • 6
    早くも困難に直面...トランプ新大統領が就任初日に果…
  • 7
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 8
    「ホームレスになることが夢だった」日本人男性が、…
  • 9
    「後継者誕生?」バロン・トランプ氏、父の就任式で…
  • 10
    軍艦島の「炭鉱夫は家賃ゼロで給与は約4倍」 それでも…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 7
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 8
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 9
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 10
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    地下鉄で火をつけられた女性を、焼け死ぬまで「誰も…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story