コラム

不法投棄に落書き...凶悪事件の現場に見る「割れ窓理論」の重要性

2024年12月10日(火)16時25分

割れ窓理論の基盤には、心理学者フィリップ・ジンバルドによる実験がある。ジンバルドは、2台の車を異なる地域に放置し、その後の状況を観察した。治安の悪い地域に置かれた車は短期間で破壊され、部品が盗まれる被害を受けた。

一方、平穏な地域に置かれた車は無傷のままだった。ところが、ジンバルドが意図的に車の窓を割ると、平穏な地域の車もすぐに荒らされた。この結果は、環境におけるわずかな乱れが、人々の行動に与える影響の大きさを示すものだった。

2006年9月に、神奈川県川崎市の市道トンネル内で起きた殺人現場にも、おびただしい落書きがあった(写真④)。この事件では、JR貨物ターミナル駅のトンネル内の歩道で、帰宅途中の27歳の女性が刺殺された。71基の蛍光灯も、落書きを照らして秩序感の欠如を印象づけただけだった。

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写真④

そもそも、トンネルは簡単に通り抜けできる「入りやすい場所」であり、入ってしまうと周りからの視線が届かない「見えにくい場所」だ。犯罪機会論では、そうした「入りやすく見えにくい場所」で、犯罪が起きやすくなると注意を喚起している。さらに、そうした「物理的な危険性」に加えて、このトンネルは、割れ窓理論が重視する「心理的な危険性」が重なっていたわけだ。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

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