コラム

アメリカの衰退見据え「日英同盟」の再構築を 英首相メイと安倍首相の握手

2017年09月01日(金)15時00分

来日したメイ英首相と安倍首相。日英の安全保障協力も焦点に Kazuhiro Nogi-REUTERS

[ロンドン発]英首相テリーザ・メイが8月30日から9月1日まで訪日し、安倍晋三首相と会談した。核・ミサイル開発を急ピッチで進める北朝鮮とイギリスの欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)が主要議題となったが、隠れた焦点が日英の安全保障協力である。アメリカの衰退が顕著になる中、「日英同盟」を再構築し、第三極・欧州の一角をなすイギリスと深い絆を結ぶことは日本にとって焦眉の課題だった。

日英関係を強める好機

最近の英首相訪日は2008年のゴードン・ブラウン(北海道洞爺湖サミット)、12年のデービット・キャメロン(日本から帰国後にチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と面会して対中関係が悪化)、16年のキャメロン(伊勢志摩サミット)。日本でG7(先進7カ国)首脳会議が開催されるか、中国との関係がまずくなっている時でない限り、イギリスの首相は日本にやって来ない。

メイは、「英中黄金時代」を仕掛けた前財務相ジョージ・オズボーンをパージし、原発発注に関して中国企業の持ち分が全体の50%を超えないようきつい縛りをかけたため、中国の国家主席、習近平から完全に睨まれた。ブレグジット後の貿易相手として日本より中国の方がもっと重要なのだが、7月末の訪中を予定していた中国からは待てど暮らせど、お呼びがかからない。

【参考記事】エリザベス女王にも愛想を尽かされた?メイ英首相が誰からも嫌われる理由

英中関係はさておき、日本にとっては好機到来。安倍首相は共同声明で「日英両国は自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的な価値を共有するグローバル戦略的パートナー」「アジアと欧州におけるアメリカに最も近い同盟国」であることを確認。合同軍事演習、国連PKO(平和維持活動)協力のほか、防衛装備・技術移転の推進、国家安全保障会議(NSC)局長レベルの対話を進めることで合意した。

さらには2019年のラグビーワールドカップや20年の東京五輪・パラリンピックに向け、日本の警察庁と英内務省のパートナーシップを結び、テロ対策、サイバーセキュリティーで政府間協力を強化するとうたった。国内に分離・独立問題を抱えるイギリスはテロ対策の長い歴史と経験があり、世界トップレベルのシギント(電子情報の収集)能力を誇る。平和な日本はこの分野でイギリスに学ぶところは多い。

【参考記事】英ケンブリッジ大学がチャイナ・マネーに負けた!----世界の未来像への警鐘

北朝鮮の朝鮮労働党委員長、金正恩は、米大統領ドナルド・トランプがテキサス州南部の洪水対策に追われ、習近平が秋の党大会を控える間隙をついて、核・ミサイル実験を強行し、「核兵器保有国」としての地位を既成事実化する狙いがある。北朝鮮が米全土を攻撃できる核ミサイルを保有するのは早ければ来年という分析もある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

べネズエラ沿岸付近に戦闘機5機、国防相が米国を非難

ビジネス

テスラ第3四半期納車が過去最高、米の税控除終了で先

ビジネス

ホンダ、ブラジルの二輪車工場に440億円投資 需要

ビジネス

マクロスコープ:生活賃金の導入、日本企業に広がる 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 10
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story