コラム

日本は「幸福な衰退」を実現できるのか?

2016年11月01日(火)16時49分

Yuriko Nakao-REUTERS

<各種の世界ランキングで著しく順位を落としている日本だが、最近は「緩慢な衰退を受け入れたほうがいい」との意見も出ており、それなりに生活を楽しんでいる途上国アルゼンチンとの比較も散見される。だが、事はそう簡単ではない>

 このところ日本が各種の世界ランキングで著しく順位を落としている。日本の国際的な地位が低下しているのは、以前から指摘されていることだが、最近はこうしたニュースに対する国内の反応も変わりつつある。かつては結果に対する激しい反発が見られたが、最近は多くの人が諦めの態度を示すようになり、ニュースに取り上げられる回数も徐々に減ってきた。

 日本人は緩慢な衰退を受け入れた方がよいとの意見も増えており、没落と経済危機を繰り返しながらもそれなりに生活を楽しんでいるアルゼンチンとの比較も散見される。だが日本が置かれた状況を考えると、こうした「幸福な衰退」は実現できそうもない。

【参考記事】世界の経済学者の「実験場」となりつつある日本

世界3位にするという目標が逆に24位に急降下

 世界銀行は10月25日、2017年版のビジネス環境報告書を発表したが、日本は全体評価で34位と低迷した。実はこのランキングは安倍政権が掲げた「日本再興戦略」において政策目標にしていたものである。具体的には「2020年までに世界銀行のランキングにおいて先進国で3位に入る」というものだった。

 2013年当時の全体ランキングは24位(改訂前)。OECDを先進国と定義するなら先進国でのランキングは15位だった。先進国で15番目だった順位を7年間で一気に3位まで引き上げようという野心的な目標であり、当時の安倍政権の意気込みが伝わってくる。

 そこから3年が経過し、最新版の報告書が出たわけだが、結果は散々だった。全体ランキングが大幅に低下し、先進国中のランキングでも24位と低迷した。世界3位にするという目標が逆に24位に低下するという有様であり、まさに急降下といった表現がふさわしい。日本は起業の容易さで89位、資金調達で82位、税の支払いで70位と苦戦。日本のランキング項目でトップクラスだったのは、「破たん処理」という後ろ向きなものだけだ。

 安倍政権が掲げた高い理想とは裏腹に、日本のビジネス環境がかなりのスピードで悪化していることは、関係者の間では共通認識となっている。これ以外にも大学の競争力ランキングや男女平等ランキングなどでも、悪い結果が続出しているが、現在の日本の状況を考えれば特に驚くべきことではない。だが、こうしたランキングに対する世間の反応には大きな変化が見られるようになってきた。

 以前は、こうしたニュースに対してはネットのコメント欄などで激しい反発の声が寄せられるのが常であった。最初の頃は「そんなはずはない」「日本の技術力はすばらしいはずだ」「評価基準がおかしい」など、ランキングの結果を否定するものが多かった。やがて「ランキングは恣意的なものだ」「日本を貶めようとしている」など、ランキングの結果を前提として、それに対して怒りを表明するコメントが増えてきた。

【参考記事】「日本の景気はもっとよいはず」日銀レポートの衝撃

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

金融デジタル化、新たなリスクの源に バーゼル委員会

ワールド

中ロ首脳会談、対米で結束 包括的戦略パートナー深化

ワールド

漁師に支援物資供給、フィリピン民間船団 南シナ海の

ビジネス

米、両面型太陽光パネル輸入関税免除を終了 国内産業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 8

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 9

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story