コラム

「ディオール疑惑」尹大統領夫人の聴取と、韓国検察の暗闘

2024年08月06日(火)08時00分

韓国の政権が検察に摘発されるメカニズム

このような事態は韓国において、実はそれほど珍しくない。韓国の検察は、今日まで時の政権の強い影響下に置かれていた。政治的人事も頻繁で、そこには検察を政治的に有利に使いたい歴代政権の意図が存在した。

しかし民主化以降、多くの政権で検察はその影響圏を脱し、政権に対する捜査を進めてきた。そのメカニズムは単純である。韓国の大統領に与えられた権力は絶大であり、だから周辺では頻繁に汚職などの犯罪が発生する。とはいえ政権の大きな権力は捜査を躊躇させるに十分であり、だから検察は当初は動かない。

だが、いったん支持率が低下し、政権の求心力が失われると、事態は一変する。検察は自らを守るためにも捜査を行わざるを得ず、またそれこそが次期政権に対する自らの存在感を示す手段になる。その過程で検察は分裂し、やがて大統領支持派が敗北する。結果、歴代政権では、その末期になると次々とスキャンダルが明らかになり、その支持率はますます低下してきた。

こうして見ると、大統領夫人の疑惑をめぐる検察の分裂と対立も、韓国における歴代政権末期のよくある状況の1つであることが分かる。最高検察庁とソウル地検は、大統領派と反大統領派に分かれて対立を続けていくのか。それとも両者が競争する形で、大統領とその周辺への捜査を行っていくのか。

明らかなのは、この政権が大きな岐路に差しかかっている、ということだ。

20241022issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年10月22日号(10月16日発売)は「米大統領選 決戦前夜の大逆転」特集。アメリカ大統領選を揺るがす「オクトーバー・サプライズ」 勝つのはハリスか? トランプか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

グローバル投資家、楽観度が大幅改善 20年6月以来

ワールド

中国軍事演習、153機の活動確認と台湾 過去最多

ビジネス

米独国債利回り差が7月以来最大、弱い欧州経済 米と

ビジネス

英賃金、6─8月は約2年ぶりの低い伸び 求人数も減
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米経済のリアル
特集:米経済のリアル
2024年10月15日号(10/ 8発売)

経済指標は良好だが、猛烈な物価上昇に苦しむ多くのアメリカ国民にその実感はない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「メーガン・マークルのよう」...キャサリン妃の動画に対する、アメリカとイギリスの温度差
  • 2
    『シビル・ウォー』のテーマはアメリカの分断だと思っていたが......
  • 3
    性的人身売買で逮捕のショーン・コムズ...ジャスティン・ビーバーとの過去映像が「トラウマ的」と話題
  • 4
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 5
    42の日本の凶悪事件を「生んだ家」を丁寧に取材...和…
  • 6
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 7
    戦術で勝ち戦略で負ける......「作戦大成功」のイス…
  • 8
    「コメント見なきゃいいんですよ、林さん」和歌山カ…
  • 9
    冷たすぎる受け答えに取材者も困惑...アン・ハサウェ…
  • 10
    ビタミンD、マルチビタミン、マグネシウム...サプリ…
  • 1
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 2
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた「まさかのもの」とは?
  • 3
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明かす意外な死の真相
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 5
    『シビル・ウォー』のテーマはアメリカの分断だと思…
  • 6
    「メーガン妃のスタッフいじめ」を最初に報じたイギ…
  • 7
    2匹の巨大ヘビが激しく闘う様子を撮影...意外な「決…
  • 8
    「メーガン・マークルのよう」...キャサリン妃の動画…
  • 9
    ウクライナ軍がミサイル基地にもなる黒海の石油施設…
  • 10
    戦術で勝ち戦略で負ける......「作戦大成功」のイス…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はどこに
  • 4
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 5
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 6
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 7
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 8
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティ…
  • 9
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story