コラム

イギリス政権交代の本当のカラクリ

2024年07月12日(金)17時45分

とはいえ実際、彼はなんにしろ勝つことなどできなかっただろう。2つの重要な問題で、国民は保守党政権に背を向けていた。1つには、公共サービスの失敗、特に国民保健サービス(NHS)の悲惨な現状だ。

2つ目には、移民問題。純移民数は依然として減らず、大規模な不法移民の流入が続いている。奇妙なことだが、5年前に保守党に票を入れた人々が今では、「14年間に及ぶ保守党政権の失態」を振り返っては口にしている。

労働党がもっとうまくやれるかどうかはまだ分からない(「これ以上ひどくやりようはないだろう」と人々は言っている)。とはいえ、スターマーが公約していることは、概して国民に受け入れられるものだ。

ブレグジットを考え直すことはしないと言っているし、移民をきちんとコントロールするとし、NHSを立て直すために措置を講じると表明し(ただしそれには時間がかかるだろうと賢明にも付け加えて言っている)、急進主義に走らず信頼に足る経済政策を取ると話している(市場は労働党大勝利の結果に警戒の反応は見せていない)。

中道的なテクノクラート

上記の全てにおいて、スターマーは労働党の前任党首のジェレミー・コービンとは全く異なる政治的生き物であることを証明した。コービンは急進的な社会主義政策で労働党のコア支持層を熱狂させた。スターマーはどちらかというと中道的で、「テクノクラート」と呼ばれることもある。

しかし、彼について最大限に悪いことを言うとしたら、彼は明らかに政治家魂を欠いた政治家だということ。また、現時点でイギリスの有権者は、他のどの選択肢より彼がマシだと判断した、と言うこともできるだろう。

ニューズウィーク日本版 BTS再始動
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月31号(3月24日発売)は「BTS再始動」特集。7人の「完全体」で新章へ、世界が注目するカムバックの意味 ―光化門ライブ速報―

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:アジア各国、中東紛争による燃料不足でコロ

ワールド

豪ライナスと韓国LSエコ、レアアース共同処理計画で

ワールド

米エクソン、ベネズエラで石油開発の可能性調査

ワールド

トルコ、中東産原油依存は10%止まり 供給問題ない
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 2
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「日本産ミュージカルの夢」に賭ける理由【独占インタビュー】
  • 3
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終回に世界中から批判殺到【ネタバレ注意】
  • 4
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 5
    「有事の金」が下がる逆説 イラン戦争で市場に何が…
  • 6
    デンマーク王妃「帰郷」に沸騰...豪州訪問で浮かび上…
  • 7
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 8
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 9
    地上侵攻もありえる...イラン戦争が今後たどり得る「…
  • 10
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 1
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 3
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 6
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 9
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story