コラム

愛してやまないBBCの、受信料制度は問題だらけ

2020年03月11日(水)19時00分

質の高い番組作りをするBBCだが、受信料制度は問題だらけ HENRY NICHOLLS-REUTERS

<イギリスで電気料金を支払わなくても民事問題で済むがBBC受信料の不払いは犯罪になる――貧しい人が豊かな人のために受信料を負担するアンフェアな仕組み>

僕は口にするのもはばかられるほど、たくさんテレビを見る。友人たちはテレビを見る時間などないとこぼす(むしろ自慢?)けれど、僕は相当の時間を費やしている。ただし見るのは、ためになる番組や面白い番組だけだ。

今は2つの番組にはまっている。『ディス・カントリー』と『インサイド№9』、どちらも素晴らしいコメディーだ。今夜はサッカーのFAカップを見るし、週末にはラグビーのシックス・ネーションズを楽しむ。仕事や食事中は、ニュース専門チャンネルをつけっ放しにする。最近、いいドキュメンタリーを2本見た。公的給付金で暮らす人々の話と、警察の殺人事件への取り組みの番組。いつか仕事に役立てたい。

これらの番組の共通点は、どれもBBCの番組だということだ。これで受信料は月に約13ポンドなのだから、とてもお買い得。BBCのおかげで、僕はネットフリックスやスカイチャンネルに加入する必要がない(なぜか「テレビを見る暇のない」友人たちはこれらにカネを払っている)。

BBCは質の低さが取り沙汰されるテレビ界にあって、とりでのような存在だ。CMに邪魔されずに、例えば是枝裕和監督の映画を鑑賞できる。だから、ジョンソン英首相がBBC憲章を抜本的に変える(受信料制から課金制に移行する)ことを検討しているとのニュースを聞いて、国の貴重な組織が脅かされるのではと心配になった。

受信料をめぐる「不都合な真実」

でも視点を変えれば、現行の制度はひどく問題だとも思う。受信料は個々人の事情に関係なく、全世帯一律だ。例えば何カ月か外国に行くとき、スポーツジムなら休会もできるが、BBCの場合は見られなくても受信料を払い続けなくてはいけない。

BBCをよく見る僕のような人と、めったに見ない人たちが同じ料金だというのも納得がいかない。イギリスの中流層はBBCが好きだが、労働者層はそうではないというのはほぼ常識だ。貧しい人が豊かな人のために受信料を負担していることになる。

世代間の差別もある。75歳以上は金持ちでも受信料は払わなくていい。一方で奨学金ローンを抱える学生でも、テレビを持っていれば受信料は払わないといけない。1990年代に猛反発を招いた人頭税でさえ、学生と失業者には割引制度があったのだが。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪6月失業率は3年半ぶり高水準、8月利下げ観測高ま

ビジネス

アングル:米大手銀トップ、好決算でも慎重 顧客行動

ワールド

WTO、意思決定容易化で停滞打破へ 改革模索

ビジネス

オープンAI、グーグルをクラウドパートナーに追加 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 5
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 6
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 7
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 9
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story