コラム

大学も就職も住宅も「損だらけ」のイギリスの若者たち

2017年07月14日(金)17時00分

イギリスの大卒者の多くは多額の借金を抱えているが、それに見合う職には就けない edella-REUTERS

<イギリスの若者が大学卒業時に抱える借金は平均735万円。それなのに仕事の給料は上がらず、住宅価格はうなぎのぼり、と損ばかり>

イギリス生活では、借金は大きな現実の一つだ。個人的な問題というだけでなく社会的・政治的な問題で、さらには世代間の問題でもある。

6月の総選挙でジェレミー・コービン率いる労働党が(彼らが思うところの)「成功」できたのも、学生の借金問題への対応を公約に掲げたのが大きな理由だったことは間違いない。僕の考えではこれは、守る必要がないだけに、簡単に約束できるものだったと思う。どうせ労働党が選挙に勝利して政権を奪取することはあり得なかったからだ。

だが、労働党の選挙公約が若者たちの心をつかんだことは疑いようもない。今の若者たちは借金問題にひどく悩まされているからだ。

イギリスでは今や若者の約半数が大学に進学する。卒業時にはだいたい5万ポンド(約735万円)の債務を抱えているのが一般的だ。授業料は通常、年9000ポンド(約132万円)かかり(多くの課程が3年制)、あとは生活費も必要になる。かつては金銭的に苦しい学生のために生活費補助制度があったが、廃止された。

学生ローンはほかの借金とはいくつかの点で異なる。最も重要なのは、必ずしも返済しなくてもいいことだ。これまで何年にもわたって学生ローン制度は変更されているが、現制度では年間所得が2万1000ポンド(約308万円)に到達して初めて返済(給与からの引き落とし)が開始されることになっている。その金額を超えた分の総収入の9%を支払うようになるのだ(これを「卒業税」と呼ぶ者もいる)。だが30年以上経過すると債務残高は帳消しになる。だから多くの人は全額返済することはないし、中には一切返済しない人もいる。

【参考記事】「持ち家絶望世代」の希薄すぎる地域とのつながり

しかしそれ以外の点では学生ローンはかなり懲罰的だ。利息はRPI(小売物価指数)に連動していて、最大で「RPIプラス3%」。だから、年度開始の今年9月からは、卒業生の中には6.1%もの利息を設定される人もいる。多くの卒業生は、利息分の支払いだけで年間3000ポンド(約44万円)ほどになってしまう。近年の卒業生のほとんどは、数年の間はそれを下回る利息しか返済できないから、元金は減らずに借金が増える一方になる。

比較のために例を挙げると、この利率は社会人の僕がローンを組む場合よりもはるかに高い。「個人融資」の場合、金利はわずか3.3%だし、住宅所有者が自宅を担保に借金をする場合(リモーゲージ)はもっと低い。

もちろん、エンジニアリングや医療、会計、金融などの仕事に就いた大卒者たちは、さほど苦労せずに学生ローンを返済できる。彼らが取得した学位は明らかに、教育にかかったコストを上回るほど、生涯収入をつり上げるのに貢献してくれる。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story