コラム

「持ち家絶望世代」の希薄すぎる地域とのつながり

2017年05月12日(金)15時40分

イギリスではここ20年程で住宅価格が急騰し、家を持つのが著しく困難になった DavorLovincic-iStock.

<住宅価格の高騰でイギリスの若者は住宅購入を諦めてしまい、地域活動にも関心を持たなくなっている>

僕はつい最近、人生で初めて地方選挙で投票した。これまで総選挙には投票してきたが、それは「重要」な選挙だったからであり、ほかには国民投票に1回、欧州議会関連の選挙に数回(投票率は極めて低かったが)、投票してきた。

僕は外国暮らしがとても長かったから、これまで地方選挙に投票する機会があまりなかった、という言い訳はちゃんとある。それにしても、明らかに僕は地方選挙をぞんざいに扱っていて、何度かあった投票の機会を無駄にしてきた。

今回の選挙がこれまでと違うところは、僕がこの2年ほど何人もの地元政治家と会って話し合いを重ねてきたことだ。長い話になるが、僕が住む通りの住民たちは、実現すれば町中の通行車両がこの静かな住宅街を通過することになる道路計画を阻止するため、反対運動を組織しなければならなくなった。

それは明らかな欠点だらけのばかげた計画だったので、最終的には見送られた。だが中止が決定されるまでにはしばらく時間がかかり、そのあいだ地元のあらゆる政治関係者がこの問題に関わった。州議会(別の町に設置されている)に計画を取り下げさせるために、彼らの協力は重要だった。

【参考記事】思惑入り乱れる「即決」イギリス総選挙

この運動の最中に気づいたのは、僕たちの通りに住む「持ち家所有者」は皆、積極的に関わっていたということだ。僕たちは自治会を結成し、当初の目的が達成された今となっても会合を続け、さまざまな問題を話し合っている。運動の間は、別の地区の自治会も、この道路計画に直接影響を受けないにも関わらず僕たちを支援してくれた。

僕たちにとってこの計画は、僕たちの狭い通りに車が押し寄せるという、不愉快で危険を伴う問題だったが、他の地区の自治会にとっては、とにかく単純にひどい計画と見えたようだった。彼らが支援してくれたおかげで、僕らの活動が単なる「地域エゴ族」(「うちの裏庭だけはダメ」、つまり、必要だが好ましくない計画を自分が迷惑を被るというだけの理由で反対する人々)ではないことを示すことができた。

近所の住民たちは、通りの全ての家に集会を知らせるチラシを配ったけれど、僕が知る限りでは、参加したのは「持ち家」に住む人々だけだった。僕は特に、それ以外の人々も運動に引き込もうとがんばった。一軒家をシェアして借りている若いイギリス人であろうと、外国籍の人であろうと(一戸建てを借りている東欧出身の家族も何組かいた)、僕は文字通り道端で呼び止めては話しかけた。

だが彼らはイマイチ関心を示さず、運動に参加した人は誰もいなかった。ごく少数の例外を除いて、窓に僕らのポスターさえ貼ってくれなかった。だから、ポスターを貼っていないか見れば、どの家が賃貸物件なのかだいたい判断できた。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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