コラム

時代に負けた独立と自由のインディー紙

2016年02月26日(金)15時10分

インディペンデント紙は3月からデジタル版のみの発行になることが今月発表された Neil Hall-REUTERS

 イギリスのインディペンデント紙(あるいは親しみをこめて「インディー」)に対して、かなりの思い入れがあるのは僕だけではない。

 多くの若いジャーナリストが、この新聞で人生初の記事を書いてきた。1999年に僕の記事が何本かこの新聞に掲載された(署名記事だ!)ときの興奮は今もよく覚えている。全国紙に記事を書くことにひどく緊張していた僕は、記事の何本かがカットもされず掲載されたことに有頂天になった。

 だがインディペンデントにはもっと深い意義がある。1986年の創刊当時、この新聞にはオーナーがいなかった。同紙で働くジャーナリストたちが所有者だったのだ。だから記事の編集において「政治的姿勢」を指示する(あるいは押しつける)ような大富豪のオーナーはいなかった。同紙初の広告キャンペーンのキャッチコピーは実に気が利いていて、今でも多くの人が覚えている。「ザ・インディペンデント――われわれは独立している。あなたは?」

 販売部数は急増し、既存の新聞を脅かすほどだった。ルパート・マードックのニューズ・インターナショナルは過剰に反応し、傘下のタイムズ紙の価格を採算が取れないほど大幅に引き下げ、読者をインディーから引き離してタイムズにつなぎとめようとした。それができたのは、ニューズ・インターナショナルが傘下の他部門から資金を融通できたからだ。一方でインディーには、販売価格を値下げしても埋め合わせができるような別の収入源はなかった。

とどめを刺した部数低迷

 インディーのライターや記者は、他紙ほど編集者の意向に縛られることなくずっと自由に活動できた。僕が後にテレグラフ紙で働いていたときには、信じられないほど記事に手を入れられた。まるで編集者は、記者本人よりも記事のことをよく分かっているとでもいうかのようだった。

 インディーの場合、時にはぎこちない記事に手を入れられたことはあったものの、「編集したいがために編集する」というようなことはなかった。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ワールド

ロ大統領、戦術核配備でベラルーシと合意 「国際条約

ビジネス

米中小銀、預金流出が過去最大 シリコンバレー銀破綻

ワールド

焦点:印女性の社会進出になお壁、出産後復職やキャリ

ビジネス

ドイツ銀株が急落、ショルツ首相「懸念する理由ない」

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:グローバル企業に学ぶSDGs

2023年3月21日/2023年3月28日号(3/14発売)

ダイキン、P&G、AKQA、ドコノミー......。「持続可能な開発目標」の達成を経営に生かす

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    大丈夫? 見えてない? テイラー・スウィフトのライブ衣装、きわどすぎて観客を心配させる

  • 2

    「次は馬で出撃か?」 戦車不足のロシア、1940年代の戦車を展開して嘲笑される

  • 3

    大事な部分を「羽根」で隠しただけ...米若手女優、ほぼ丸見えドレスに「悪趣味」の声

  • 4

    「この世のものとは...」 シースルードレスだらけの…

  • 5

    「何世紀の銃?」 兵器不足のロシアで「70年前の兵器…

  • 6

    「ベッドでやれ!」 賑わうビーチで我慢できなくなっ…

  • 7

    インバウンド再開で日本経済に期待大。だが訪日中国…

  • 8

    アメリカでも「嫌い」が上回ったヘンリー王子、ビザ…

  • 9

    劣化ウラン弾、正しいのはロシアかイギリスか

  • 10

    女性兵士50人が犠牲に...北朝鮮軍が動揺した「鬼畜事…

  • 1

    大事な部分を「羽根」で隠しただけ...米若手女優、ほぼ丸見えドレスに「悪趣味」の声

  • 2

    「この世のものとは...」 シースルードレスだらけの会場で、ひときわ輝いた米歌手シアラ

  • 3

    女性支援団体Colaboの会計に不正はなし

  • 4

    「ベッドでやれ!」 賑わうビーチで我慢できなくなっ…

  • 5

    プーチンの居場所は、愛人と暮らす森の中の「金ピカ…

  • 6

    事故多発地帯に幽霊? ドラレコがとらえた白い影...…

  • 7

    復帰した「世界一のモデル」 ノーブラ、Tバック、シ…

  • 8

    「セクシー過ぎる?」お騒がせ女優エミリー・ラタコ…

  • 9

    「気の毒」「私も経験ある」 ガガ様、せっかく助けた…

  • 10

    「そんなに透けてていいの?」「裸同然?」、シース…

  • 1

    大事な部分を「羽根」で隠しただけ...米若手女優、ほぼ丸見えドレスに「悪趣味」の声

  • 2

    推定「Zカップ」の人工乳房を着けて授業をした高校教師、大揉めの末に休職

  • 3

    訪日韓国人急増、「いくら安くても日本に行かない」との回答も一変......その理由は?

  • 4

    「ベッドでやれ!」 賑わうビーチで我慢できなくなっ…

  • 5

    【写真6枚】屋根裏に「謎の住居」を発見...その中に…

  • 6

    1247万回再生でも利益はたった328円 YouTuberが稼げ…

  • 7

    バフムト前線の兵士の寿命はたった「4時間」──アメリ…

  • 8

    ざわつくスタバの駐車場、車の周りに人だかり 出て…

  • 9

    年金は何歳から受給するのが正解? 早死にしたら損だ…

  • 10

    プーチンの居場所は、愛人と暮らす森の中の「金ピカ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story