コラム

トランプの経済政策は、アメリカだけが得をする「歪んだグローバリズム」

2016年11月14日(月)15時50分

 もう少し続くかと思った株安・ドル安は選挙結果の判明した東京時間だけという極めて短期で収束しましたので(しかし米国債だけは2016年11月12日現在、売り継続)、実体経済の地味な成長とはかけ離れた株高、今後リパトリエーションで発生するであろうドル高への思惑とともに短期筋は盛り上がり、過去の遺物として葬りさったはずの投機筋も大々的な復活の機会をうかがっているでしょう。決して少なくない米国のグローバル企業が嬉々としているはず。

 大規模減税で米財政赤字は膨らみますが(超党派の非営利組織「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」の試算ではクリントン氏が政権を取った場合と比べて10年で約550兆円増)それが実体経済の急速な減速など悪影響を及ぼすのはもう少し先。同盟国への防衛費負担増などを求められ、それを渡りに船とばかり飛びついて消費税増税をすれば、米国発の急速な景気後退局面と相まって日本の実体経済はますます厳しいことに――と羅列はしてみましたが、今の段階での判断は時期尚早です。というのも、何もできないまま4年が過ぎることも考えられるからです。早速、オバマケア撤廃とした選挙公約を見直すとのニュースも出てきました。イニシアチブを発揮しないリーダーの周囲には何かと画策する面々も集まってくるでしょうから、全ては今後の具体的な政策次第ということになります。それでもなお、国民の価値観の分断だけは禍根として残ることになります。

 それにしても今回の大統領選の有権者の投票率の低さは気になるところ。共和党支持者は通常通り投票に行き、民主党支持者の無投票が多かったようです。有権者の投票率が72.2%(前年の英総選挙は66.1%)と高い国民投票で決まったBrexitとはその意味において単純比較はできないとは思いますが、Brexit後に見られたヘイトクライムが米国内でも報告され始めています。こうした動きの拡大阻止のためにも、理想論と言われようと、建設的な国民統合からは程遠く、経済的にも精神的にも不健全で退廃的な政策や態度には毅然とNOを示す必要があるはず。それが多数決の結果である民主主義のもたらす「欠乏」を埋める作業になりうると考えるからです。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ADP民間雇用、8月は5.4万人増 予想下回る

ビジネス

米の雇用主提供医療保険料、来年6─7%上昇か=マー

ワールド

ウクライナ支援の有志国会合開催、安全の保証を協議

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的な意思疎通を強化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story