コラム

円安誘導をもうアメリカは許さない

2016年05月03日(火)17時30分

 なお、為替介入の資金は皆さんの銀行預金などが巡り巡って充てられます(ドル買い・円売りをするために、売るための円をまず財務省は調達しなければなりません。その際には短期国債を発行して、それを金融機関が購入することで円資金を手に入れます。金融機関が購入するのですから、原資は皆さんの預金等となります。ちなみに、そうして発行された短期国債は政府の借金として計上され、消費税増税の大義名分とされる政府の借金の額を大きく見せる効果も持ち合わせます)。米国では国民の資金を使うということで米国議会からの突き上げが厳しく、為替介入には極めて消極的と言われています。

 昨年6月に「ドル売り介入」の最大の好機としましたが、120円台でドル売りをしておけば、70円台で購入したドルの為替差益を確定でき実現益を懐に入れられただけでなく、再度円高になった際にはドル買いと機動的に動けます。今回の米財務省の報告書の新査定基準でも触れられている「一方的な為替介入」を逆手に取り、1年以内にドルを高値で売っておけば、協調介入が無理だとしても、単独のドル買いをする際のエクスキューズとして効力を発揮できただろうに、と今さらながら思う訳です。もはや機会収益を逸し、交渉のカードもない。

 外国為替レートが一国の力で如何ともしがたい以上、各国の動向を睨んだ上での戦略的な発想は必要で、そうした発想が欠落すれば当局と言えど、市場の動きにただ翻弄されるだけ。さらには外交交渉でも不利になるという憂き目にも遭いかねません。目先の為替動向に囚われるべきではないというのは大所高所から、50年、100年国家のグランドデザインをどう描くのかと深く関係することでもありますが、短期的発想(=目先の利益)、一部への利益誘導に終始するような、天下国家を考える発想の欠如は結果的に国益を損なうことに繋がります。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

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