コラム

急拡大する太陽光発電、その光と影

2015年08月17日(月)16時00分

 これまで電力会社は電力需要のピークになる盛夏に合わせて設備を作ってきた。夏暑いときは、日照がよく太陽光の発電も増える。(図表1)は九州電力の電力需要だ。夏休みに入る企業がまだ少ない8月11日の電力需要予想(図の灰色線、青線が需要実績、緑線が九電の発電量)だが、電力を最も使う午後のそれが平らになっている。これまでは山の形になっていた。供給限界の赤線部分より余裕がある。

 夏のピークをなくすのは電力会社の経営の課題だった。夏の一時期のピークのために設備をつくっていたためだ。それが再エネで実現したのだ。

(図表1)九州電力の8月11日の電力需要予想(同日午前9時時点 九州電力ホームページより)
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 また前述の北杜市で、太陽光が大量に開発されたのは、土地を貸す人がいるからだ。日本の各地で、農地や森林が余っている。経産省によれば、この3年の工事費、パネル代金などによって生まれた関連需要は全国で1兆5000億円を超えた。この資金で町づくり、地域振興の新しい取り組みが生まれている。

 いっぽう、このFITの補助金総額は、今年15年度(平成27年度)は1兆3222億円。制度が始まった2012年から急増している。(図表2)当初月額66円だった標準家庭の負担額は、15年度には474円と急増する見込みだ。太陽光発電の運転が始まったためで、経産省は、補助金は数年以内に3兆円程度になる可能性があるとの予想を出している。

(図表2)再エネ補助金の総額
isii_hyou12.jpg  日本の電力市場の大きさは電力会社の合計で約16兆円、現在は料金値上げの影響で約20兆になる。その規模からすると数兆円単位の補助金はあまりに大きい。しかし、そこから利益を得る人も、再エネ拡大で満足する人もいる。問題の多い制度だが、決して失敗とも断定できないだろう。

冷静にエネルギーを語る時期

 福島原発事故という大失敗の反省の中で生まれた再エネ振興政策も、評価されるべき面はあったものの、開発による環境破壊や補助金の金銭負担の問題が拡大しつつある。補助金の抑制や環境保護のルール作りが今ようやく、政府内で検討されている。

 再エネは一例だが、福島原発事故の後で、原子力政策、エネルギー政策は、議論を尽くしていない問題が多いように見受けられる。もちろん原発事故の反省は必要だ。安全なエネルギーを確保しようというのは国民的合意であろう。

 ところが「原発を使わない方法」だけに関心が集まりすぎて、他にも考えるべき重要な論点が、詳細に分析されなくなってしまった。原発事故からおよそ4年半が経過した。そろそろエネルギーをめぐる議論が冷静になってもいい。重要な物事への判断を適正にするには特別な方法などない。「私たちは間違うかもしれない」という意識を常に持ちながら、できる限り正確な情報を集め、冷静な熟議を重ねることだ。

プロフィール

石井孝明

経済・環境ジャーナリスト。
1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」“http://www.gepr.org/ja/”の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

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