コラム

トランプを信用していないが対米関係も重視...サウジ「全方位外交」の狙い

2025年05月09日(金)16時40分

15年、当時国防相だったムハンマドはイエメン北部を占拠する武装組織フーシ派への攻撃を開始し、一時期は泥沼状態に陥っていたが、サウジアラビアとイランの和解でイエメン情勢は若干落ち着いた。

他方でサウジアラビアはイスラエルと接近し、23年10月には国交正常化も近いとみられていた。しかし、イスラエルが奇襲を仕掛けてきたイスラム組織ハマスに対して猛烈な反撃を展開。サウジは態度を硬化させ、両国の国交正常化は一気に遠のいた。


ムハンマドはトランプを信頼しているわけではない。第1次政権でトランプがイラン攻撃を躊躇したことで不信感を募らせたためだ。現在は武力行使の可能性を含めてイランに強い圧力をかけ、フーシ派への攻撃を強めるが、それで域内情勢が危機に瀕することを望んでいるとも思えない。国防相が4月にイランを訪問したのはその表れだ。

サウジアラビアにとって対米関係は重要だが、ビジョン達成には国益と大義の間でバランスを取った全方位外交を続ける必要がある。

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プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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