コラム

米情報機関が予測したAIの脅威......2025年は規制と支援のバランスを真剣に考える年

2025年01月06日(月)08時30分
AI

LLUSTRATION BY CARLOSCASTILLA/ISTOCK

<能力だけが急速に進化していくAI。情報のプロが考える、近未来の「主人」はAIか、それとも人か?>

アメリカ西部の鉱山町に生まれ育ち、電気も車も舗装道路も飛行機もない世界でピストル片手に馬に乗っていた自分が、まさか居間のテレビで人類の月面着陸を見るまで長生きするとはな。祖父はよくそう言っていた。

あれは1969年のこと。祖父と一緒に着陸を見守ったアポロ11号に搭載されたコンピューターのRAM(ランダムアクセスメモリ)はたったの2キロバイトだった。今のスマホは8ギガバイト、アポロ11号の約420万倍だ。しかも、それが世界中に83億台もある。

AI(人工知能)の進化はまだ始まったばかりだが、たぶん祖父が腰を抜かすほどのスピードで世の中を変えていく。アメリカの国家情報会議(NIC)は2021年にAIを「人間や動物ではなく機械によって実行される認知的・創造的な問題解決」システムと定義し、「いずれは人間の理解力・学習能力に並ぶ可能性を有する」と付言していた。

いや、並ぶどころではない。AI研究の権威で、メタ社のチーフAIサイエンティストのヤン・ルカンはもっと大胆に「機械が人間より賢くなるのは確実」であり、問題はそれが「いつ」「いかにして」起こるかだと言い切る。

実際、早ければ5年以内にAIはほとんどのタスク処理において人間を超えていく可能性がある。その日が来る前に、私たちは次なる問いに答えておかねばならない。

「主人は誰か。AIか、人か?」

ルカンと並ぶAIの権威で24年にノーベル物理学賞を受賞したジェフリー・ヒントンは、AIが「いずれ私たちより賢くなり、人類を支配する」日の到来を憂慮している。

オープンAIを率いるサム・アルトマンも23年の米議会における証言で、AI技術が社会に取り返しのつかない害をもたらす前に、一刻も早くAI企業の規制に着手すべきだと述べた。

NICも、AIは「地球規模で......強靭な生存戦略の開発を必要とする実存的脅威」になり得ると警告している。1万年に及ぶ文明史上初めて、人類は自分たちを邪魔し、支配し、その生存を脅かしかねない強敵と向き合っているわけだ。

もうすぐAIは人間の活動領域のほぼ全てにおいて、劇的かつ革命的な改善と新技術を提供し始める。どんな分野でも飛躍的に効率がよくなる。学生はどこにいてもAI先生の個別指導を受けられるようになる。不治の病の治療法も見つかるだろう(AI診断は今でも人間より正確とされる)。農業分野では作物の収量が増える。車の自動運転が可能になる。一方で巧妙かつ膨大な量の偽情報が拡散され、遠隔殺人兵器をAIが操作するようになる。

たとえ人類を支配することにはならなくても、AIは世界中の工場やオフィスで人々の雇用を奪うことになる。どんな職種であれ、向こう15年以内に雇用の7~47%がAIに置き換えられると予想されている。もっと早く、「2030年代前半まで」には雇用総数の38%前後が不要になるとの指摘もある。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル

ワールド

香港警察、手配中の民主活動家の家族を逮捕

ビジネス

香港GDP、第1四半期は前年比+3.1% 米関税が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story