コラム

トランプが去っても「トランプ政治」はアメリカを破壊し続ける

2020年11月17日(火)19時15分

ホワイトハウスの記者会見場から退場するトランプ(11月5日) CARLOS BARRIA-REUTERS

<全世界が驚いた共和党のしぶとさ──民主主義の土台を蝕み始めたアメリカ文化に潜む「悪魔」とバイデンは戦うことになる。本誌「米大統領選2020 アメリカの一番長い日」特集より>

アメリカでは誰もが固唾をのんで大統領選の開票状況を見守り、ドナルド・トランプ大統領の──そして連邦議会選での共和党の──思わぬ強さに驚きを感じずにいられなかった。
20201117issue_cover200.jpg
最終的にどのような決着を見るにせよ、この選挙のダメージは後々までアメリカをさいなむだろう。だが、問題は今回の選挙で生まれたわけではない。アメリカの文化に潜む「悪魔」が社会と政治システムをむしばみつつあるのだ。この国の文化と政治でゆっくり進んできた変化にテクノロジーの影響が相まって、社会と政治が半ば機能不全に陥っている。

トランプが破壊を強力に推し進めてきたことは確かだが、アメリカの社会と政治が機能不全に陥った直接的な要因は、少なくとも約60年前、見方によっては240年前の建国時から存在していた。たとえトランプが退場しても、政治の麻痺と社会の退廃が解消されるわけではない。

共和党が現在のような政治姿勢を取るようになったのは1964年のこと。極右が党内の主導権を握り、この年の大統領選でバリー・ゴールドウォーターを大統領候補に選んだ(本選挙では現職のリンドン・ジョンソンに敗北)。その指名受諾演説でゴールドウォーターが述べた言葉はあまりに有名だ。「自由を守るための急進主義は、全く悪ではない。正義を追求するための穏健主義は、全く美徳ではない」

これ以降、共和党はひたすら右へ右へと歩み続けてきた。今では、妥協することを民主主義の重要な原則と考えるのではなく、原理原則への裏切りと見なす傾向が強まっている。

その後60年近くの間に、共和党は連邦政府への敵意を強めていった。ロナルド・レーガンは1981年の大統領就任演説で、「政府こそが問題だ」と述べた。「政府」と妥協への敵意は、これ以降も強まる一方だった。

トランプも4年前、政治のアウトサイダーとして大統領選の勝者になった。政界の腐敗と癒着を大掃除し、利己的な政治家と官僚を一掃するという期待を担っていたのだ。

私は数年前、カリフォルニアで結婚披露宴に出席したとき、トランプ支持者の考え方を痛感した。このパーティーで、隣席の男性から職業を尋ねられた。そういうとき、私はたいてい「CIAで働いています」とは答えない。その日も「ワシントンで政府の仕事をしています」と答えた。すると、男性は私をまじまじと見て「あなたは敵だ」と言った。

「いや、違いますよ。私は公僕です。国民が望む仕事をしているのです」と反論したが、男性の態度は変わらなかった。「いや、あなたたちは私たちの自由を奪おうとしている」

このような発想は共和党と、草の根保守連合ティーパーティー、そして「QAnon(Qアノン)」と呼ばれるトランプ支持の陰謀論者たちの間に広まっている。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイスアジア運営のファンド、取締役の個別面談義務化

ワールド

TikTok禁止法、クリエイターが差し止め求め提訴

ビジネス

中国、売れ残り住宅の買い入れ検討=ブルームバーグ

ワールド

豪が高度人材誘致狙い新ビザ導入へ、投資家移民プログ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story