コラム

もう中国で一番有名じゃない加藤君への最後の手紙

2013年07月22日(月)09時00分

今週のコラムニスト:李小牧

〔7月16日号掲載〕

 大切な友人である加藤嘉一君へ──。

 君が北京大学の留学生として単身中国に渡ったのは、03年のことでした。その後コラムニストとして活躍。「中国で一番有名な日本人」と呼ばれるほどになったのに、昨年の今頃突然南京大虐殺の真相を疑問視する発言をして中国で猛反発を受け、まるで追われるようにアメリカのハーバード大学に移った──この10年はまさに、中国語で言う「坐過山車(ツォクオシャンチョー)」、山あり谷ありでしたね。

 おっと、加藤君にとって一番の大事件を忘れていました。昨年の秋、日本の週刊誌が「東大合格」 という経歴詐称を追及すると、君はようやく事実を認め、日本と中国の読者に謝罪しました。

 風の便りで聞いたところでは、君はこの6月でハーバードでの勉強を終えて、新たな人生の一歩を踏み出すそうですね。その拠点がアメリカなのか日本なのか、あるいはわが祖国の中国なのか分かりませんが、人生の第2の門出に当たって、君の古くからの友人として、そして人生の先輩としてささやかな、最後のアドバイスをしたいと思います。

 中国・広東省の雑誌「新週刊」の封新城(フォン・シンチョン)編集長が先月中旬の約2週間、視察のため日本を訪れました。中国の著名なジャーナリストである封編集長は私の友人でもありますが、彼はとても残念がっていました。「加藤君は『あなたが日本を訪問するときは必ず僕が案内する。いや、僕が招待する!』と言っていたのに、どうして来てくれないのだろう?」と。

 封編集長は君に中国で「出世」するチャンスを与えた人です。新週刊は10年、加藤君を「中国に有意な視野を提供する人物」と認め、「時代騎士賞」という賞を贈りました。君はこの受賞をきっかけに、中国メディアに次々と露出するようになりました。

 封編集長が日本を離れる前、私が君にメールを送ると、「今、日本にいないので行けない」と返事をくれましたね。自分のサイトに書き込んだとおり、君が本当に「アジアでフィールドワーク」していたのか、それとも実は母国に「潜伏」していたのか定かではありませんが、いずれにせよマイクロブログの微博(ウェイボー)で300万人のフォロワーを持つ封編集長の動向を君が知らないはずはないし、挨拶のメール1本ぐらい送るべきでしょう。

 誰でも会いたくない人はいます。場合によってはあえて関係を断つ場合もある。ただ君の場合はそれがあまりに多い。「自分の利益のために人を踏み台にしていい」「役に立たない人間は切り捨てて構わない」と考えていませんか? かつて日本人に聞こえないのをいいことに、中国でさんざん日本の悪口を言い、「胡錦濤(フー・チンタオ)に面会を求められた」とほらを吹いていた頃と基本的に変わっていないのではないか、と心配になります。

■「雑巾がけ」から再出発せよ!

 加藤君は最近、日本で新たに著書を出版したそうですね。その中で珍しく経歴詐称や南京大虐殺発言について率直に触れている、と聞きました。29歳の君がようやく間違いを認める大切さを理解してくれたかと思うとうれしい限りですが、一方で本を売るためのテクニックではないか、とも疑ってしまいます。

 新著では相変わらず「中国で一番有名な日本人」と宣伝しているようですが、「中国で一番有名な日本人」はとっくに君ではなく、AV女優の蒼井そらです。君の「嘘」が日本で通用する時間は残り少ない。人生の先輩として忠告します。祖国で「雑巾がけ」からやり直してはどうでしょう。大学に入り直しても企業で働いても構わない。出版やメディア出演といった派手な方法ではなく、地道に努力を積み上げるのです。「臥薪嘗胆(がしんしょうたん)」に耐えて初めて、日本人も中国人も君を一人前と認めてくれるでしょう。

 わが新宿・湖南菜館は「雑巾がけ」ならいつでも大歓迎です(笑)。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

デンマーク、米外交官呼び出し グリーンランド巡り「

ワールド

赤沢再生相、大統領発出など求め28日から再訪米 投

ワールド

英の数百万世帯、10月からエネ料金上昇に直面 上限

ビジネス

英生産者物価上昇率、6月は2年ぶりの高水準
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 7
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に…
  • 8
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story