コラム

中国はいったん「崩壊」していい

2010年04月19日(月)11時20分

今週のコラムニスト:李小牧

 わが中国でまた大地震が起きた。香港より人口が少ない青海省なのに、死者と行方不明者の数は2000人に迫ろうとしている。08年の北京五輪直前には四川大地震、そして5月1日から始まる上海万博を目の前にした今回の青海地震。大きなイベントの直前に大災害が起きるのは、中国の日頃の行いが悪いからだろうか?

 今回の地震をきっかけに、また日本や世界の保守派の人たちが「中国崩壊論」を言い出すかもしれない。誰よりも中国人であることを誇りに思う李小牧なら、「中国崩壊論はとっくに崩壊している!」と反論するはず――と読者のみなさんは思うだろう。だが必ずしもそうではない。中国は一度、悪いところを直すために崩壊していい。

 アルコール度数60度の白酒(パイチュウ)を飲み過ぎたわけではない。

 最近、わが人民元の切り上げがよくニュースになっている。要するに「本当は通貨としてもっと価値があるはずだから、値段を上げるべきだ」ということなのだが、私に言わせればその必要はない。むしろ人民元と中国は本当の価値より高く評価されている、と思うぐらいだ。

■バブル崩壊で損するのは富裕層

 確かに中国人は若者も老人も金もうけを目指し、元気にあふれている。すべての国民が「明日は今日より良くなる」と信じて毎日を生きているのだから、中国経済が当面崩壊することはないだろう。

 ただカネや利益、地位を追い求めるあまり、人間としての「筋」が通ってない中国人が多過ぎる。最近、中国では下水や残飯からつくった「地溝油(リサイクル食用油)」がまたニュースになっているが、自分さえよければいい、という考えだから平気でニセモノを作ることができる。社会に貢献するという考えもない。

 オリンピックや万博、昨年の建国60周年パレードなど、見栄えのいい「ハード」はつくってきたが、「ソフト」が伴っていない。経済開放から30年経ったのに、まともなブランドがほとんどないことを考えればそのことがよく分かる。唯一といっていい「ウーロン茶」だって日本のサントリーが育てたブランドだ!

 私は中国の不動産や株のバブルは崩壊してかまわないと思っている。投資している人の多くは富裕層。地方政府は強制立ち退きでつくった土地を売ってもうけ、役人は汚職にまみれている。上海や深圳、北京の不動産は庶民がとても買えない値段に跳ね上がっており、バブルが崩壊したとしても、大きく損するのはこういった富裕層や役人たちがほとんどのはずだ。

 多くの中国人は「中国が強国になった」と思っているが、ブランド1つ育てられない中国は大国ではあっても強国ではない。インターネットの情報も統制されているから、国民は自分の国と世界が今どうなっているのかを知らない。最近のキルギスの政変も、隣国なのに中国ではあまり報じられていない。

 中国人特有の「面子(メンツ)」も相変わらずだ。私に言わせれば、ヘンなプライドが高い人が多い。自分が間違いをしても認めず、平気でウソをつき続け、反省心がない。天安門事件の過ちを未だに認めないのは、他国から見ればこっけいでしかないことに気づかない。

■ゼロからつくり直せる国

「崩壊」したからといって、中国と中国人の悪いところすべてが良くなるわけではない。中国が崩壊すると世界も崩壊する、と心配する人の気持ちも分かる。

 だが、いったんすべてを崩してゼロからつくり直すと前よりよくなっていることが多い――というのが、ダンサー、貿易会社員、作家、歌舞伎町案内人と、さまざまな仕事をすべてゼロから始め、成功してきた李小牧の経験則。そのときには不幸に感じても、長い眼で見たときにはいい結果になっているものだ。

 信じられない? なら中国と日本の歴史を思い出してほしい。中国は文化大革命で、日本は第二次大戦で国がめちゃくちゃになったが、ともにゼロからつくり直してずいぶんましな国になったではないか。

 かなりわが母国に厳しいことを言って来たが、それもこれも「小罵大幇忙(小さな批判が大きな助けになる)」という愛国心から。国外に出て、中国以外の世界を知った中国人が母国に厳しいことをいうのは、ある意味義務だと私は考えている。

 こんなことを書いたら、帰国したときにまた中国の入管で止められるかもしれないけど(笑)!

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ボーイング、来年のキャッシュフロー黒字転換見通し=

ビジネス

トランプ氏、次期FRB議長人事を来年初めに発表 ハ

ワールド

ホンジュラス前大統領釈放、トランプ氏が恩赦 麻薬密

ワールド

プーチン氏と米特使の会談終了、「生産的」とロシア高
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止まらない
  • 4
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 5
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 6
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 7
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story