コラム

キンドル上陸!電子書籍の価格戦争はこれから面白くなる(はず)

2012年10月31日(水)13時18分

 日本でもアマゾンによるキンドルの電子書籍販売がやっと始まった。さっそく試し読みをしている人々が多いことだろう。

 私にとっては、電子書籍にどんな価格が付けられるのかは興味津々だった。というのも、アメリカでも電子書籍の価格については二転三転あり、おそらくこれからもまだまだ変わり続けるだろうからだ。

 ざっと日本のキンドル本を見てみたところ、無料のものは別として、やはり二つに分かれているのがよくわかる。プリント本の価格からあまり値引きされていない電子書籍と、けっこう思い切った値引きがされている電子書籍である。

 伝え聞くところによると、日本でもアマゾンと出版社との契約に際して、ホールセール(卸売り)モデルとエージェンシー(代理店)モデルとの二通りの方法が採られたとのこと。前者ではアマゾンが最終販売価格を決め、後者では出版社の意向に従った価格で販売される。日本では再販制度によってプリント書籍は出版社の設定する価格で売られていたのだが、電子書籍は制度の適用外。さて、どうなるのかと思っていたところ、そのように分かれたというわけだ。

 実はアメリカでは、このふたつのモデルのおかげで、電子書籍の価格が上がったり下がったりしたという経緯がある。

 最初に電子書籍市場に乗り込んだアマゾンがホールセールモデルで販売を続けていたところ、約3年後になってアップルが参入。その際に大手出版社がこぞってエージェンシーモデルに乗り換え、同モデルをアマゾンにほぼ強要したのだ。赤字覚悟で安売りを仕掛けるアマゾンに対し、プリント本が売れなくなることを危惧していた出版社が、アップルと同じエージェンシーモデルに切り替えなければ取引しない、とアマゾンに圧力をかけたのだ。

 ところが、この取り決めは今年になって覆される。司法省が、出版社とアップルが徒党を組んで価格操作を行ったのは独占禁止法に違反すると訴えたからである。現在は、ほとんどの出版社が司法省と和解し、再びホールセールモデルに戻っている。

 この間、電子書籍の価格は上下した。いや、正確には下がっていたものが、アップルの登場で上がり、再び今はやや下がった状態である。典型的な例を挙げると、10ドルだったものが15ドルになり、その後12ドルほどのところで現在は落ちついているという感じか。

 アップル登場によって電子価格の値段が上がってしまった時は、メディアが騒ぎ立て、消費者もブログやツイッターで抗議の声を上げたものだった。その点、日本の消費者はおとなしく見える。もちろん、アメリカの前例があるので、エージェンシーモデルも独占禁止法に抵触するような方法ではなく、各社と協議の結果ということになってはいるだろう。だが、消費者としては、高い値段を付けたままになっている出版社に対して、もっと「価格引き下げの努力をせよ」とか「思いっきりが悪い」とか「電子書籍時代へ飛び込め!」とか、声高に要求、あるいは鼓舞してもいいのではないか。

 とは言っても、おそらく時代は否応なくそちらに向かうだろう。このままではどう見ても二分のされ方があからさま過ぎる。新時代に飛び込んだ出版社とそうでない出版社。電子書籍の消費者が共感を感じたほうへと流れは決まる。

 ところで、そんなモデル以外にも、電子書籍の価格を変える要素はいくらでもある。アメリカの電子書籍ストアでは、「今日のお買い得商品」があったり、特定の「作家キャンペーン」があったりして、その都度価格が動いている。それも本当のところは、書籍ストアや出版社が、価格を変動させることによって売れ行きやファンの動きがどう変わるのかを実験しているのだ。売上や評判などのデータがリアルタイムに価格に反映される時代も、すぐに来るだろう。

 電子書籍は、そうした意味でもプリント本とは比べものにならない流動体だ。これから何が起こるか、わからない。ようこそ、電子書籍時代へ。

プロフィール

瀧口範子

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』、『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち: 認知科学からのアプローチ(テリー・ウィノグラード編著)』などがある。

ニュース速報

ビジネス

仏ルノー、上半期は販売好調で8.8%増益 営業利益

ビジネス

独VWブランド、上半期は3割超の減益 排ガス不正問

ビジネス

新日鉄住金、通期経常益予想は35%減の1300億円

ビジネス

空売り後の公表、倫理的に疑問=伊藤忠リポートで日本

MAGAZINE

特集:世界を虜にするポケモンGO

2016-8・ 2号(7/26発売)

世界中で始まったポケモンGOの大ブレイク──。屋外型「カワイイ」ゲームの騒動は社会に何をもたらすか

人気ランキング (ジャンル別)

  • 最新記事
  • コラム
  • ニュース速報
  1. 1

    もし第3次世界大戦が起こったら

  2. 2

    ハーバードが絶賛する「日本」を私たちはまだ知らない

  3. 3

    沖ノ鳥島問題で露呈した日本と中国の共通点

    台湾の漁船拿捕をきっかけに「島か岩か」問題が再…

  4. 4

    サイコパスには犯罪者だけでなく成功者もいる

    サイコパスはすべてが殺人鬼ではない。なかには、…

  5. 5

    数学の「できない子」を強制的に生み出す日本の教育

  6. 6

    ISIS処刑部隊「ビートルズ」最後の1人、特定される

  7. 7

    日本軍と共謀した毛沢東を、中国人はどう受け止めたか?

  8. 8

    米軍は5年前、女性兵だけの特殊部隊をアフガンに投入していた

  9. 9

    英EU離脱に憤る若者たち: でも実は若年層は投票しなかった世代

  10. 10

    ISISはなぜトルコを狙うのか

  1. 1

    レイプ写真を綿々とシェアするデジタル・ネイティブ世代の闇

    ここ最近、読んでいるだけで、腹の底から怒りと…

  2. 2

    共和党と民主党どこが違う

    米大統領選挙は共和党、民主党いずれも党大会を…

  3. 3

    よみがえった「サウジがポケモンを禁止」報道

    <「ポケモンはハラーム」との記事が日本のニュースサ…

  4. 4

    嫌韓デモの現場で見た日本の底力

    今週のコラムニスト:レジス・アルノー 〔7月…

  5. 5

    中国の「反日暴動」がアメリカでほとんど報道されない理由とは?

    先週末から今週はじめにかけて、中国の各地では…

  6. 6

    ジャーナリストが仕事として成り立たない日本

    <トラック運転手をして取材資金を貯めるという桜木武…

  7. 7

    英国EU離脱は、英国の終わり、欧州の衰退、世界の停滞をもたらす

    英国の国民投票は、EU離脱支持が残留支持を上回り…

  8. 8

    スマホが人間をダメにする

    インターネット時代、スマートフォン時代になっ…

  9. 9

    英国EU離脱。しかし、問題は、移民からロボティックスへ

    <世界一のグローバル都市へと成長し、移民が急増した…

  10. 10

    「ブレグジット後悔」論のまやかし

    <ブレグジットの国民投票以降、「EU離脱に投票…

  1. 1

    テスラ車死亡事故、自動運転中にDVD鑑賞の可能性

    米電気自動車(EV)メーカー、テスラ・モータ…

  2. 2

    バングラデシュで襲撃の武装集団鎮圧、外国人ら20人殺害

    バングラデシュの首都ダッカで1日夜、レストラ…

  3. 3

    バングラ事件、邦人7人含む20人死亡 安倍首相「痛恨の極み」 

    バングラデシュの首都ダッカで1日夜、レストラ…

  4. 4

    豪下院選は大接戦、結果判明5日以降に 「宙づり議会」の可能性

    2日に投票が行われた豪総選挙の下院選は、ター…

  5. 5

    バングラデシュ人質事件、日本人は1人救出 7人安否不明

    バングラデシュの首都ダッカのレストランで1日…

  6. 6

    バングラデシュ人質事件で日本人7人の死亡確認=菅官房長官

    菅義偉官房長官は2日午後11時半過ぎに会見し…

  7. 7

    クリントン氏優勢 トランプ氏と差は縮小=米大統領選調査

    ロイター/イプソスが実施した米大統領選の候補…

  8. 8

    日本の改正児童福祉法、施設暮らしの子ども救うか

    金属の柵で囲まれた小児用ベッドに寝かされた赤…

  9. 9

    邦人犠牲者は20代から80代の男女、菅官房長官「断固として非難」

    菅義偉官房長官は3日午前の記者会見で、日本人…

  10. 10

    イラク首都の爆弾攻撃で約120人死亡、ISISが犯行声明

    イラクの首都バグダッドで3日未明、2回の爆発…

 日本再発見 「世界で支持される日本式サービス」
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
リクルート
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

0歳からの教育 育児編

絶賛発売中!

コラム

パックン(パトリック・ハーラン)

芸人もツッコめない? 巧みすぎる安倍流選挙大作戦